マラリア撲滅への挑戦!

妊娠中の免疫低下と重症化リスク
現在も世界中で大勢の人がマラリアで命を落としています。マラリアの原因は「マラリア原虫」と呼ばれる単細胞の寄生虫です。マラリア流行地で病態が重症化するのは、主にマラリア原虫に対する免疫を獲得していない子どもです。流行地の子どもはマラリアの罹患と治療を何度も繰り返しているうちに免疫を獲得し、マラリア原虫への抵抗性を高めていきます。
しかし、妊娠すると母体の免疫力が低下するため、病態が重症化しやすくなります。さらに、胎児にも悪影響を与え、毎年約20万人の胎児の命が失われています。その対策として、多くの国では妊娠初期から治療薬を服用する施策が実施されています。
敵を知る
現在使われている抗マラリア薬に対して耐性を獲得したマラリア原虫が出現しています。この薬剤耐性マラリア原虫への対策には、従来の薬とは異なる機構で作用する薬を新たに開発する必要があります。薬の開発のためには、まずヒトとマラリア原虫の違いを十分に理解することが重要です。例えば、マラリア原虫だけが持っているタンパク質などは薬の標的になる可能性があります。薬の開発には標的とするタンパク質がどのような役割を果たしているのかを理解することも重要なので、遺伝子改変技術などを駆使してその役割を明らかにしていきます。
終わりなき闘いを次のフェーズへ
薬の標的となるタンパク質が見つかっても、実際に薬として使うためにはさまざまな困難が待ち受けています。副作用の少ない薬の開発が難しい、価格を抑えることができないなど、次のハードルが越えられないケースもあります。また、使用可能な新しい薬ができたとしても、いつかは耐性株が生まれてしまうでしょう。マラリアとの闘いが終わることはないかもしれません。
日本ではマラリアは撲滅されていますが、世界での根絶をめざして、日本の研究者も新薬開発のための研究に取り組んでいます。世界で唯一、マラリアを根絶できた日本の研究力と経験を生かす努力が続けられているのです。
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先生情報 / 大学情報

麻布大学生命・環境科学部 臨床検査技術学科 教授新倉 保 先生
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