生命体のリズムに学んだ、日本製「日やけ止め化粧品」

生命体のリズムに学んだ、日本製「日やけ止め化粧品」

日やけ止め化粧品の高い耐水性

夏になると活躍する化粧品の1つに、日やけ止め(サンスクリーン剤)があります。日本製の日やけ止めのなかには、ある化学現象に着目することで、水に濡れても落ちにくく、しかもライトな感触を実現した高品質の製品があります。「散逸構造」という現象を利用した日やけ止めです。

「散逸構造」とは?

私たち生命体には、バイオリズムとよばれるさまざまな周期現象が自発的に発生しています。ところが、外部から酸素と栄養素を取り入れ、それらを二酸化炭素などに変換して排出する活動を止めてしまうと、生命体ではなくなりバイオリズムも停止、つまり死んでしまいます。生命のリズムのある挙動は、生命体が外部と物質やエネルギーのやり取りをできる「開放系」であるために発生します。これに似た、時間・空間的にリズムのある現象が、生命体ではない人工的な化学系でも起こる場合があります。それが「散逸構造」です。
例えば「ワインの涙」という現象があります。ワインをグラスに注ぐと、グラスの内壁に涙のようなワインのしずくが、空間周期性をもって自発的に現れては滴り続けます。これは、グラス内壁に接しているワイン表面からアルコールが蒸発すると、残った水分の濃度が高くなり粒状になって滴るもので、ワインの中にアルコールがある限り続くのです。

樹脂を減らして耐水性を高める

冒頭で紹介した日やけ止めを塗ると、表面に自発的に細かな凹凸構造ができます。これも「散逸構造」の現象です。ちょうど蓮の葉と同じメカニズムで水をはじくため、耐水性が備わります。通常、耐水性を高めるには樹脂量を増やすのですが、そうすると、どうしてもベッタリと重い付け心地になってしまいます。この化学現象を活用することで、樹脂量を増やすことなく耐水性を高められるわけです。加えて、表面の細かな凹凸構造が光を乱反射することで、テカりが抑えられるという利点もあります。
「散逸構造」を化粧品のみならず産業技術に応用するのは、世界的に見てもたいへん珍しい着眼点といえます。

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慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 教授 朝倉 浩一 先生

慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 教授 朝倉 浩一 先生

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応用化学

メッセージ

思いっきり好きなことをするために、大学に来てください。そして、「常識のうそ」にだまされない人になってほしいと思います。本学の創設者である福澤諭吉は、明治維新の9年も前に、開港したばかりの横浜を訪れ、「これからは蘭学ではなく英語で西洋の学問を学ぶことが重要」と確信して英語の勉強を開始し、その4年後に慶應義塾は英学塾に転向しました。当時の「常識」では蘭学が最先端の学問でしたが、福澤諭吉は自らの体験から実態を見抜いたのです。あなたも、自分の目で見て、自分で考え、自分で行動する人をめざしてください。

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