遺伝子改変霊長類モデルとiPS細胞が解き明かすヒトの心の秘密
精神疾患の抱える難題
アルツハイマー病や自閉症など、精神疾患の治療が難しい理由の1つとして、内臓などの病気と違い、簡単に脳を開けて調べることができないということが挙げられます。その難題を打破する研究として、最先端技術を利用した2つの方法が試されています。
その1つは、マーモセットというサルを使う方法です。従来のようなマウスを使った実験では、ヒトとマウスの脳が大きく異なるため、精神疾患の研究への応用には限界がありました。そこで、2009年に、遺伝子を改変したマーモセットを作ることに成功しました。このような遺伝子改変霊長類の作出は、世界で初めてのことです。このマーモセットの脳を調べることで、精神疾患の原因究明や治療法の開発に役立つことが期待されています。
iPS細胞で神経を再生する
もう1つの方法は、ヒトの皮膚などを利用して作ることができ、人体のさまざまな組織に変化するiPS細胞の応用です。遺伝子に由来する精神疾患であれば、患者の皮膚などから作られたiPS細胞を神経系の細胞に分化させれば、患者の神経の働きを再現することができます。また、遺伝子操作したiPS細胞を使えば、遺伝子のDNA配列と病気との因果関係を確かめることができます。原因究明に役立つほか、どのような薬が効果があるかを、動物や人体で実験する前に試験管の中で確認することもできるのです。iPS細胞を用いて神経を再生させる研究は、これまで不可能と思われていた脊髄損傷などの再生医療にも応用できるものとして注目されています。
心はどこから生まれてくるのか
これらの研究は、ヒトの脳のメカニズムを解明していくことにつながっていきます。これまで人類が遺伝子のDNA配列を解析してきたように、最新の脳科学の世界では、人間の脳のどの部分がどういう働きをし、どう相互作用しているかという「脳の地図」の作成が計画されています。「心」とはどのように生み出されるのかというメカニズムが解明される日も遠くないかもしれません。
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