原子力発電所の安全を支えるオープン主義
日本の原子力発電所は技術も安全性も世界一
日本の原子力発電所は建設から運用、地震への取り組みまで含め、通常の技術面では世界一でしょう。理由がわからずにプラントが止まる確率は、諸外国の原子力発電所が年間1プラント(炉)あたりほぼ1回なのに対し、日本は0.1回です。しかし、日本の原子力発電所は地震が原因で稼働率が約60%と低いのが現状です。また東日本大震災での原子力発電所の事故では、設計条件や危機管理を含めた安全設計に大きな課題を残しました。日本での運用の特色は地域住民、国や地方自治体、そして国民全体の合意を得ながら稼働させなくてはならないことです。そこで重要になるのが、リスクコミュニケーションです。
すべてオープンに
原子力発電所では、「手洗い場の水があふれた」といった程度の軽微な事象から新聞に載るような事故まで、さまざまなトラブルが起こります。これを「不適合事象」と言い、1年間で何千件も起こりますが、これらをすべて報告し、どうすればいいかを真剣に検討します。合意を形成するために、悪いところもすべてオープンにしています。「あまり軽いものは必要ないのでは」と思うかもしれませんが、細かな不具合も大きな不具合も同じ原因で発生する可能性があるので、丹念に原因をつぶしていくことが必要です。隠して後から明るみに出て不信感を呼ぶよりは、最初から些細なものもすべて報告するのです。ここまでやっているのは、原子力発電業界だけです。
データベースで自らを守る
さらに、2005年ごろから、このようなトラブル事象を業界全体で共有するシステムの運用が始まっています。A社で起きたトラブルを知らなかったB社が、同じような事故を起こしてしまうことが過去にあったからです。トラブルにとどまらず、工事や補修に関する情報も共有しています。いわば業界の自警団です。
このようなことが可能なのは「事故を起こしてはならない」という価値観を業界全体で共有しているからです。安全管理は、まさにこの「価値観の共有」があるかないかで決まるのです。
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