ごくわずかな血液を超高感度に分析 宇宙医学や未病に役立てる

宇宙旅行に必要な宇宙医学
近年の技術革新により、いずれ気軽に宇宙旅行に行ける時代が来るでしょう。その際、移動や滞在の技術だけでなく、健康への影響や対策を考える宇宙医学も不可欠です。宇宙では閉鎖的空間、無重力、放射線が飛び交うといった環境となり、人の細胞の酸化を進める、酸化ストレスが強いこともわかっているからです。
宇宙実験で血液を分析
宇宙環境が体内に与える影響を明らかにするため、NASAの協力を得て宇宙にてマウス実験が行われています。訓練を受けた宇宙飛行士を想定したストレスに強いマウスと、一般人を想定したストレスに弱いマウスを用意し、宇宙ステーションで数日過ごさせます。宇宙に行く前、宇宙空間滞在中、地球に帰還後の血液を採取して分析すると、ストレスに弱いマウスの白色脂肪(中性脂肪)は、ほぼなくなっていました。酸化ストレスに抵抗するため、使い果たしたのです。
酸化ストレスで細胞の酸化が進むと、老化が進みます。宇宙での酸化スピードは地球上の10倍早く、老化も10倍早くなります。宇宙では、酸化ストレス対策が必須です。それには抗酸化作用のあるDHA(ドコサヘキサエン酸)や、EPA(エイコサペンタエン酸)などが効果的である可能性が高く、これらを含む宇宙食やサプリ、薬の活用が考えられます。
超高感度の分析法が未来を開く
こうした血液の分析には、分子の極性と質量の違いを基準に、細かく分けて解析する、最新の機器が用いられます。この分析方法によって、微量な分子を高感度で計測できます。必要な血液量は、1滴よりはるかに少ない10マイクロリットルほどです。
この技術で血液に含まれる分子を分析すると、タンパク質や代謝物といった物質にどんな変化が起きているのか、体内で何が起きているのかが見えてきます。すると、未病の段階で疾患のリスクを発見する、新薬の開発など、未来の健康に役立てることができます。この技術はさまざまな生物や有機物にも活用でき、未知な分野の解明の可能性も秘めています。
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帝京大学薬学部 准教授三枝 大輔 先生
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