人に優しい医療を作る、「メディカルポリマー」の世界
「材料」の観点から医療を支える
人々の命を守る医療の技術は、さまざまな分野の研究によって発展しています。イメージしやすいのは、創薬面からサポートを行う薬学分野や、手術で使われる器具や機械を作る医療工学分野でしょう。さらに「材料化学」の分野も、医療を支える上では欠かすことができません。
近年注目の素材「メディカルポリマー」
手術では、縫合糸など術後も体に残る素材が使われることがあります。そのような医用素材の中で注目を集めているのが「メディカルポリマー(医用高分子)」です。メディカルポリマーは人体との親和性が高く、「縫合後、時間がたつと溶けてなくなる抜糸の必要がない糸」を作ることも可能です。
また高分子の性質を生かした素材には「低温では液体、高温ではゲル状に固まる」という、通常とは逆の性質を持つものもあります。この素材に薬剤を入れて注射をすれば、注入後素材は体温で固まり、薬剤は体の中にとどまります。そして、その後ゆっくり溶け出して効用を発揮し続けます。これまで定期的に複数回しなければならなかった注射の回数が減り、体への負担を減らすことができるのです。
液体が膜を作る、スプレー状癒着防止剤
そのほか、研究が進められているものに、「スプレー状の癒着防止剤」があります。開腹などの外科手術を行うと、治癒の過程で本来離れているべき臓器がくっついてしまう「癒着」が起こることがあります。現在癒着防止のために使われるのはラップのような素材ですが、患部の形状に合わせるのが難しく、また開腹部が小さいと貼ることそのものが困難という欠点がありました。スプレー状の癒着防止剤ならどんな形状のものにも塗布でき、内視鏡にノズルを付けることで小さな開腹部に使用することもできます。今はまだ動物実験の段階ですが、人体への使用に向けて研究が進められています。
医療の土台を支える材料化学は、医師が使いやすく、患者への負担が小さい「人に優しい医療」を実現する可能性を秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
関西大学 化学生命工学部 化学・物質工学科 教授 大矢 裕一 先生
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