セラミックス素材で、骨と「人工関節」とをガッチリ固定
人工関節治療の難点は「接着剤」の剥がれ
病気やけがで骨や関節が激しく損傷した場合、人工的な器具で治療することがあります。代表的なものに「人工股関節」「人工膝関節」があり、病気やけが以外にも、加齢によって関節の軟骨がすり減ったり、変性したりした高齢者が人工関節の埋め込み手術を受けるケースが増えています。
人工関節は、金属の支柱を骨に埋め込んで固定しますが、年月が経つと、骨と支柱との接着が緩んでくることが問題です。金属と生きている骨とを瞬間接着剤のような素材でくっつけるのですが、剥(は)がれてしまい、長期間ガッチリと結合させるのは困難なのです。
骨や歯に近い人工素材で骨を「勘違い」させる
人工関節と骨との結合が緩みすぎると、再手術して接着し直さなければなりません。そこで現在、リンやカルシウムから作る「アパタイト」というセラミックス系の材料を、人工関節の支柱表面にコーティングしたり、接着剤の材料として活用したりする研究が進んでいます。
アパタイトは、構成成分が骨や歯と非常に近い素材です。そのため骨との親和性が高く、まるで折れた骨が時間とともに再生するように、骨がアパタイトを骨の仲間だと勘違いして結合するのです。人工関節の結合だけでなく、歯のインプラント治療や骨そのものの治療などでも、アパタイトの応用が研究されています。
慎重に安全性を確認
ただ、骨と結合しているアパタイトのコーティングが剥がれてしまうと、人工関節を固定できなくなります。また、「骨や歯と非常に近い」とは言え、やはり人工の素材ですから、合成する際にさまざまな化学物質を使用します。その中に、毒性や発がん性が懸念される物質が混じっていると、体内に入れることができませんから、細胞実験などを繰り返して安全性を十分に確認しなければなりません。
まだ多くの課題が残っている研究領域ですが、研究が進めば骨だけでなく、再生させるのが困難な軟骨の代替素材なども開発できるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
九州工業大学 大学院生命体工学研究科 生体機能応用工学専攻 教授 宮﨑 敏樹 先生
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