捨てていた資源も有効活用 持続可能な社会に不可欠な人工触媒

人工触媒を使って鮮度保持、フードロス削減
米を食べると、体内の酵素によって分解されてブドウ糖になります。この酵素のように物質の分子構造を変える反応を起こさせるものを「触媒」といいます。産業界では人工的につくったさまざまな触媒が活用されています。
例えば、多孔質シリカ(ケイ素)にプラチナのナノ粒子を付着させた「プラチナ触媒」は、エチレンガスを二酸化炭素に変える働きがあります。エチレンは収穫した野菜などから出るガスで、野菜の鮮度を落とす原因となります。この触媒を冷蔵庫に置くとエチレンが分解されてなくなるため、野菜の鮮度が保たれ、廃棄物を減らすことができます。この技術は、すでに確立していた触媒反応を、企業のアイデアで実用化に結びつけた事例です。
大量にあるセルロースから貴重な素材を生み出す
また、特定の物質を生み出す反応が起こるように設計された触媒もあります。例えば、セルロースは植物の主成分で、地球上で最も大量にある有機化合物ですが、分解が非常に難しく、紙や木綿として利用する以外にあまり用途がありませんでした。そのセルロースから、生成が難しく貴重なオリゴ糖をつくる、活性炭を使った触媒が開発されています。ブドウ糖分子が鎖のようにつながったセルロースを、3個~6個のブドウ糖からなるオリゴ糖に分解するのです。この触媒によって、食品としてだけでなく農作物の活性剤としても期待されているオリゴ糖の材料として、セルロースが活用できるようになりました。
持続可能な社会に欠かせない人工触媒技術
ほかにも、地球温暖化の原因である二酸化炭素を工業利用できる一酸化炭素に変換する触媒が実用化されています。また、セルロースからプラスチックを作る触媒の研究も進んでいます。
このように、人工触媒の技術、特に例にあげたような固体の触媒は、反応後に生成した物質を分離するのも簡単で、余計なエネルギーを使いません。持続可能な社会には欠かせない技術として期待されているのです。
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北海道大学触媒科学研究所 物質変換研究部門 教授福岡 淳 先生
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