生分解性プラスチックを活用した人と自然に優しい高機能材料
生分解性プラスチックは普及しにくい?
生分解性プラスチックとは、微生物や酸・塩基条件下で分解されることを特徴とするプラスチックです。具体的には、分子鎖中のエステル結合が切断されることで低分子化し、最終的には水と二酸化炭素まで分解される仕組みの、自然に還る地球環境に優しいプラスチックです。最もポピュラーなものは、デンプンを原料としたポリ乳酸(PLA)です。しかし、その「分解できる」こと自体が弱点でもあります。例えば自動車の内装にはポリプロピレン(PP)やポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(PC/ABS樹脂)が使われます。PLAに置き換えた場合に、日が経つごとに分解が進んでしまうと大変です。そのため数十年単位でのタフさが求められる工業材料への進出は難しいと言えます。
適材適所で
しかし、生分解性プラスチックには使い道があります。環境負荷がほぼないという点で、農業用フィルムや植木ポットには従来から使われていますし、最近は3Dプリンタで樹脂から試作モデルを作ることが増えており、低温で溶け、比較的固いため、PLAは重宝されます。また廃棄しても、環境や人体への害がないため、マイクロプラスチック問題の対策として注目されています。
異なる分野と融合して新しい材料へ
現在はさらに、生分解性プラスチックに生物の持つ機能を取り入れる研究が進んでいます。例えばハスの葉の構造を模倣すれば、水をはじく撥水性(はっすいせい)を付加でき、カタツムリの殻の構造をまねすれば、逆に水を引き寄せる親水性が手に入ります。この両性質を交互に組み合わせると、大気中の水分を効率よく水に変換できるので、生分解性を持ちながら緑化を進められます。この原理自体も、ナビブ砂漠に住むキリアツメゴミムシダマシという虫の水を集める行動を取り入れています。このように複数の技術が融合し、未来の環境を考慮しながら高い機能を持つ全く新しい材料の開発が進んでいるのです。
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先生情報 / 大学情報
金沢工業大学 バイオ・化学部 環境・応用化学科 ※2025年4月名称変更 准教授 谷田 育宏 先生
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