医工連携で新しい医療道具を開発しよう
血管の「こぶ」を治す医療用コイル
脳動脈瘤(りゅう)は、脳の血管にこぶができて膨らんでしまう疾患で、破裂するとクモ膜下出血を起こして突然死に至る場合もある怖い病気です。その治療法の一つが、血管内に医療用コイルを運び、患部をふさいでこぶに血が入らないようにする「塞栓(そくせん)術」です。ただし動脈瘤の形は患者によって千差万別で形や大きさが不規則です。そこへうまくコイルを詰めるには工夫が必要です。
まず考えられるのは、患部の形状を3D-CADというソフトを使って、3次元画像として再現します。さらにそのデータから、3Dプリンタを使って造形すれば忠実なモデルができるので、これに合うコイルになるようカスタムメイドで巻き付けていきます。
材料を自由に変形させる塑性加工
コイルのつくり方として、「塑性(そせい)加工」という方法が用いられます。塑性加工にはいくつか種類があります。例えば鋼(はがね)をたたいて刀を鍛えるように金属に高圧をかけて強度や粘り強さを出す「鍛造(たんぞう)」や、2つ以上の回転ロールで圧下して厚い素材を目的の形になるよう引き延ばす「圧延(あつえん)」などです。医療用コイルの製造では「曲げ加工」と「熱処理」を組み合わせてコイルをつくり込んでいきます。
目的の場所で目的の形に展開
できあがったコイルを患部に運ぶには、血管に挿入する細い管であるカテーテルを使います。患部に合った形にしたコイルをそのままカテーテルに差し込むことはできませんから、カテーテル内では直線状とし、患部に入った途端にコイル状に戻って充填(じゅうてん)されなければなりません。コスト、治療の完成度、コイルの持つ機能を考慮して、患部となっているこぶの血管からの入り口だけを「フタ」上に塞ぎ、その「フタ」をこぶの中で突っ張り棒のように支えることができればコイルは最小限で済むことになります。こうした形状をできるかぎり安定させることが現在の課題で、塑性加工という面からの挑戦が続いています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
金沢工業大学 工学部 先進機械システム工学科 ※2025年4月開設 教授 瀬川 明夫 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
医用工学、生産工学、塑性加工学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?