温度で動いて形が変わる、形状記憶合金の可能性
スマホや宇宙ロケットにも使われる素材
温度によって形が変わる、形状記憶合金という金属は、実は私たちの身の回りでもよく使われています。これは一定の温度になると元の形に戻る金属で、電気やコイル、センサも不要、エネルギーを変換するアクチュエータも使わずに、熱によって金属が動くことが最大の特徴です。形状記憶合金をバネ状にすると温度を感知して伸び縮みするので、火災報知器やスプリンクラー、温水シャワーの温度調整、炊飯器の圧力調整部分などに使われています。
少量の電気を使って伸び縮みさせることもでき、スマホのカメラ機能や、宇宙ロケットの切り離し部分などにも使われています。省スペースで省電力、軽量化に貢献する合金なのです。
特性を調整して、医療器具としても活用
形状記憶合金は、ニッケルとチタンを合成してつくられます。この割合を変えたり、熱処理を変えたりすることで、形が回復する温度や、弾性といった性質を変えることができます。柔軟性にも長(た)けていて、人の体温で元に戻るようにした医療器具もあります。血管を広げる器具や、がん細胞のある臓器に直接薬を届ける器具、内視鏡などにも使われています。医療現場では、なくてはならない素材にもなっています。
アイデア次第で、広がる活用分野
さらに、力を加えても元の形に戻ろうとする弾力性があるので、これを利用して、農作業をする人の腕を支える作業補助具や、介護をする人の腰への負担を軽減する器具も開発されています。教育の分野ではエネルギー変換の教材などに利用して、科学技術の楽しさを伝えるアイテムとして活用されています。
また、これまではワイヤー材としての製品が中心でしたが、3Dプリンタや鋳造(ちゅうぞう)法を用いて立体的な加工も可能となりつつあります。複雑な形状ができれば、まったく新しい緩衝材といった商品開発も可能となります。とてもユニークで特徴のある形状記憶合金は、アイデア次第で活用の幅がますます広がるでしょう。
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愛知教育大学 教育学部 創造科学系 技術教育講座 教授 北村 一浩 先生
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