学校で必要な学びとは何か
身体的には健康だが
ユニセフの報告書によると、日本の子どもは身体的な健康がOECDまたはEU加盟の38カ国中1位、また数学や読解力は5位という一方で、精神的な幸福度は37位でした。これは子どもの身体的健康と基礎学力の高さが「ウェルビーイング」につながっていない点において深刻です。また現在の日本では、子どもの学びの環境が良くも悪くも保護者の影響を受けたり、日本語の学習支援が必要な外国ルーツの子どもが増えたり、性的アイデンティティに違和感を持つ子どもがいたりと、多様な現状も抱えています。
何を学ぶのか?
教育学において、学校で何をどう学ぶかという「カリキュラム論」の研究が進んでいます。学校教育を通じてめざす力は、文部科学省が発行する学習指導要領に明示されますが、その内容は時代ごとの社会や経済、政治の影響を受けることもあります。近年は不確実な社会を生きる上で、変化に対応するためのスキルやデジタルツールを使いこなす力が注目されています。カリキュラム論では、それらの学びがすべての子どもにとって参加しやすくなっているか、学びの内容が子どもの自己肯定感を阻害していないかなどを注意深く見ていきます。つまり教育を通して社会的な平等や、公正を実現するという展望に基づいているのです。
海外の事例からの学びも
研究では、海外の事例の観察や分析も役立ちます。移民が多いカナダやオーストラリアでは、ものごとをさまざまな視点でとらえて考える「批判的リテラシー」の形成を学校教育の中心に位置づけることで、子どもの学力向上と社会参加の両方を実現しています。具体的には、授業中の「対話」や批判的思考に時間をかける特徴があります。子どもたちが疑問や意見をお互いに否定することなく出し合えるような環境がつくられて、安心して学びを深めていく仕組みです。一般的には文化や言語的な背景が多様であるほど学力不振が生まれやすい中で、高い成果を上げている海外諸国の事例を分析して日本の教育現場に共有していくことも、大切な研究活動のひとつです。
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