便利な素材「形状記憶合金」に新事実! その特性と用途とは?
誰もがお世話になっている「形状記憶合金」
形状記憶合金とは、変形しても、「形状回復温度」と呼ばれる温度以上にすると元の形に戻る性質のある合金です。例えば形状回復温度を20℃にしておくと、20℃より十分低い温度下であれば普通の金属のように変形して、20℃以上に暖めると元の形に戻ります。
この性質を利用して変態点をさまざまに設定することで、シャワーの温度調節装置や、体温で形を変えて血管を拡張させる医療器具、機械のアクチュエータ、熱エンジンなど、幅広い用途に使われています。さらに現在、振動を絶縁する装置やリハビリ機器への応用も研究されており、大きな可能性を秘めています。
形状記憶合金の新しい性質
この形状記憶合金に、新事実がわかりました。それは「一定量の座屈変形をさせると『負の剛性』が現れて、これをうまく使うと振動を伝えなくなる」という特性です。座屈変形とは、細長い物体を圧縮すると、物体が折れ曲がるように起こる変形のことです。身近な例では、プラスチックの下敷きを立ててできるだけ上からまっすぐに押すと下敷きが曲線状に変形しますよね? あの変形が座屈変形です。この変形をさせたとき、形状記憶合金は変形させればさせるほど力が減少する「負の剛性(ばね剛性が負)」という珍しい特性を示す場合があります。
振動を嫌う機器への応用
この負の剛性と、「正の剛性(ばね乗数が正)」普通のばねを上手に組み合わせると「ゼロ剛性(ばね剛性が0)」という、不思議な状態を作り出せます。この「ゼロ剛性」の状態は、変形を続けるるために必要な力の増加がない、という状態となり、一定の力で変形が進む(押しても引いても力が一定な)状態です。この状態は実は「振動を伝えない」という特徴を有します。なぜなら、振動は伝達する力が変化することで起こりますが、押しても引いても力が一定なため、振動が物体に伝わらないのです。この特徴は非常に小型かつ軽量な除振装置として使用できるので、精密さが要求される加工機械等への応用が研究されています。
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先生情報 / 大学情報
北九州市立大学 国際環境工学部 機械システム工学科 准教授 長 弘基 先生
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