鉄と水素は仲が悪い? 水素社会の実現にむけた鉄鋼材料の開発
次世代エネルギーの本命
地球環境問題が深刻化するなかで、水素エネルギーが次世代のエネルギーとして注目されています。水素は燃焼させても二酸化炭素(CO₂)を出さないため、脱炭素社会実現の切り札となるでしょう。この水素エネルギーを活用したのが燃料電池自動車(FCV)で、究極のエコカーともいえます。またFCVにも使われている燃料電池システムは、発電やロボット、産業機械などでの市場拡大が期待されています。しかし、水素を利用する際には、使用する金属の「水素脆化(すいそぜいか)」という技術課題があり、部品などの材料に制約が多く、普及拡大の障害となっています。
水素脆化とは?
水素脆化とは、金属素材の中に吸収された水素によって、金属の強度が低下する現象のことをいいます。水素原子は直径が小さいので、圧力が加わると金属の結晶構造の中に侵入してしまい、金属の組織に破壊や亀裂が生じると考えられています。しかしそのメカニズムの詳細は、まだよくわかっていません。
特に鉄鋼は水素脆化によって強度が大きく低下するので、高圧で水素をタンクに格納する必要があるFCVの開発では大きな技術課題となっています。金属材料として、鉄鋼は汎用性が高いため、水素脆化メカニズムの解明と、水素に強い構造の開発研究が特に求められているのです。
鉄鋼と水素の関係を数値化
鉄鋼はその結晶構造によって特性が異なっており、オーステナイトやマルテンサイトと呼ばれる構造を持った鉄鋼が幅広い分野で使われています。鉄鋼の水素脆化のメカニズムの解明と、水素に強い鉄鋼開発のためには、こうした鉄鋼の種類別にさまざまな条件下で実験して、数値データをとる「定量的な研究」を行う必要があります。具体的には、種類別に水素の影響と水素適合性を調べるX線回折分析法(XRD)という方法があります。鉄鋼と水素の関係を知ることは、環境にやさしい燃料電池の実用化や脱炭素社会への転換を担い、水素社会という新しい未来を切り開くために重要な研究なのです。
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山口大学 工学部 機械工学科 准教授 マカドレ アルノー 先生
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