形が元に戻る形状記憶合金には不思議がいっぱい!
「形状記憶合金」ってナニ?
一般的な金属は曲げると、塑性変形(そせいへんけい)といってその形のままになります。しかしニッケルやチタンなどの金属を混ぜて作った合金の一部には、加熱すると元の形に戻る性質があります。これは「形状記憶合金」と呼ばれています。物質は、ある温度になると結晶構造が変わる「相変態」という性質を持っています。通常、金属は、変形させると金属原子が隣の原子とつないでいた手を離し、また別の原子と手をつなぎます。しかし形状記憶合金は、変形させても金属原子は隣の原子と手をつないだままなので、熱を加えて一定の温度(変態点)になると、原子の結合の手が元の位置に戻り、形も元に戻るのです。
思い通りにならない形状記憶合金
形状記憶合金は、アメリカ海軍の新素材開発の研究で、1960年代に偶然発見されました。近年は電子顕微鏡の普及により、研究が大きく進んでいます。電子顕微鏡なら、「どこにどの原子が並んでいるか」という原子の結晶構造を見ることができるからです。しかし形状記憶合金をはじめ金属材料は、どれだけデータを蓄積し、どれだけ材料設計でシミュレーションしても、実際に作ってみるとまったく意図しない特性が生まれることも少なくありません。必ずしも「1+1=2」にはならないのです。
新素材の開発と応用が生活を豊かに変える
形状記憶合金は、巻き爪のクリップから心臓カテーテル、高層ビルの制震ダンパー(地震エネルギー吸収装置)など、さまざまな分野で活用されています。しかし、現在実用化されている形状記憶合金は、100℃が変態点の限界となっています。そのため今、より高温下で使用できる形状記憶合金の開発が求められています。高温でも使用できる形状記憶合金が実用化されれば、例えばジェットエンジンの温度センサが不要になるため、飛行機やロケットを軽量化することができ、エネルギー消費の削減に役立ちます。このように新素材の開発とその応用は、私たちの世界をより豊かに変えてくれるのです。
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熊本大学 工学部 材料・応用化学科 准教授 松田 光弘 先生
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