半導体づくりをより安全で低コストにするミストCVD方式とは
ミストで半導体をつくる
半導体は、スマートフォンなどの電気製品に欠かせない精密部品です。半導体の基板を覆う膜をつくる成膜工程は、原子を一粒ずつ並べていくような緻密な作業です。一般的な成膜方法は、膜になる材料にエネルギーを加えてつくる「PVD法(物理的気相堆積法)」や、基板の上で化学反応を起こして成膜する「CVD法(化学的気相堆積法)」などがあります。しかし、PVD法は真空状態を作り出す装置が必要なのでコストが高く、CVD法で使うガスは爆発の危険性をともないます。こうした課題を解決する新たな成膜方法として開発されたのが、「ミストCVD方式」です。
シンプルで安全、低コスト
ミストCVD方式は、水溶液にした材料に超音波の振動エネルギーを与え、ミスト状にして膜を作る技術です。ミストはガスと同じくふわふわと漂うので狙った部分に送り込みやすく、それでいて爆発の危険性もありません。また、家庭用の加湿器と同じシンプルな仕組みなので、加熱のエネルギーや高価な装置も不要です。液晶に使われるIGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛の酸化物)や、電気自動車やハイブリッド自動車への搭載が期待されている酸化ガリウムをはじめ、さまざまな金属酸化物が材料として使えます。
理論を覆して実用化に
現在では装置メーカーをはじめ、製造現場に導入され始めているミストCVD方式ですが、当初は実現不可能だと考えられていました。ミストの粒の直径が3μm(マイクロメートル)あるため、その1,000分の1ほどの薄さで原子を並べるように成膜するには大きすぎるからです。しかし実際に実験してみると、ミストが膜の表面で気化することでガス状になり、粒がより細かくなってきれいに成膜することがわかりました。これは、加熱されたフライパンの上に垂らした水滴が、熱のエネルギーでフライパンの表面に付着することなく踊るように蒸発する原理と同じです。理論だけで判断せず、地道に実験を繰り返したことが、大きな研究成果につながった好例です。
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先生情報 / 大学情報
京都工芸繊維大学 工芸科学部 設計工学域 電子システム工学課程 准教授 西中 浩之 先生
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