電力不足を防げ! ゲルマニウムで実現する光通信

電力不足を防げ! ゲルマニウムで実現する光通信

シリコン半導体の限界

コンピュータやスマートフォンの活用が進み、データ処理量が急激に増えています。それにつれて、データセンターの電力消費が膨大になっています。この主な原因は、シリコン製の半導体チップ内で電気信号をやり取りする際のエネルギー損失です。
電気信号の代わりに「光」を利用すれば電力消費は抑えられますが、シリコンは光を発することができません。シリコンは地球の4分の1を占める豊富な資源で、半導体チップの材料として活用されていますが、情報処理の電力効率という面では限界を迎えつつあるのです。

ゲルマニウムで光を作る

この課題を解決するために、基板はシリコンのままで、回路部分にゲルマニウムを用いる研究が進められています。ゲルマニウムはシリコンと性質が似ていながら、光を出すことができるからです。しかし、シリコン基板上でゲルマニウムの結晶を成長させると、格子間隔が異なるためにひずみが生じ、特にシリコンと接するところで欠陥ができてしまいます。これを解決するために、ゲルマニウムの上にさらにシリコン層を貼り合わせてひっくり返し、もともとの基板だったシリコン層を削り取る方法が開発されました。この技術によりきれいなゲルマニウム膜が作れるようになり、LEDが作製できるようになりました。

より強い光を求めて

ただし、実用化にはもっと強い光が必要です。そこで、チップ内に共振器を設置してレーザー光にする研究が進められています。レーザー光にするためには、元の光もある程度強いことが必要です。そこで、髪の毛の10~50分の1ほどの極小の「橋」を作ってひずみを利用するといった工夫で、光を出しやすくする技術が開発されています。
光回路に必要なほかの要素技術は既に開発されており、強い発光が待たれている状態です。実現すれば、チップ内の通信を光に置き換えることで消費電力を10分の1程度に抑えられる可能性があります。レーザーの早期完成をめざして、情報処理装置の電力問題解決に向けた研究が続けられています。

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先生情報 / 大学情報

東京都市大学 理工学部 電気電子通信工学科 教授 澤野 憲太郎 先生

東京都市大学 理工学部 電気電子通信工学科 教授 澤野 憲太郎 先生

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結晶工学、応用物性学

メッセージ

半導体は「物」ですから、新しい半導体を作ることは、工作で新しいものを作ることに似ています。すべての研究は新しいものを創り出す行為です。ほかの人と同じものを作っても研究にはなりません。自分だけの、斬新なものを作ることを楽しむ心が必要です。それを持っている人が、将来、いい研究ができます。そういう人は、大学卒業後に会社に入ってからも、新しいものを開発する力になれると思います。人のまねではなく、新しいものを作る楽しみを持って、大学に進んで来てほしいです。

東京都市大学に関心を持ったあなたは

東京都市大学は2009年4月に武蔵工業大学からへ校名を変更。新たに文系2学部、理系2学部、文理複合系1学部を擁する総合大学として発足しました。前身の武蔵工業大学は80年の歴史を持ち多くの卒業生を輩出、日本の産業発展に貢献して来ました。97年には文系・理系複合の環境情報学部、09年には文系の都市生活学部と人間科学部を設立し、工学部から分かれた知識工学部を加えて学問の分野が大きく広がっています。80年の歴史を携え、キラリと光る特徴をもち存在感のある大学を目指す東京都市大学は、常に進化を続けています。