史上最も精密な装置を支える技術、ナノスケールサーボ

史上最も精密な装置を支える技術、ナノスケールサーボ

液晶画面を製造するには

携帯電話やパソコン、そして薄型テレビの液晶画面を作る装置は、史上最も精密といわれ、1万分の1ミリという細かい精度が求められます。液晶画面には赤、緑、青の光を通すフィルタがとても細かい密度で敷き詰められているのですが、それは基板に上からパターンを焼きつけて作っています。以前は基板を一つひとつ台に置いて作っていました。しかし、今はコストを抑えるために大きな基板を作ってそれを切り分ける作り方に変化したため、大きな基板と焼きつける装置を同時に動かしながら製造するようになりました。

位置を決める技術

しかし、基板が大きくなると、ゆがみやすくなるという問題が出てきました。さらに、機械はモータで力を出すので、振動が避けられません。そして求められる精度はさらに細かくなっていきます。このような問題をクリアし、装置の上下を同じ速度で動かしながら高い精度で合わせなければいけないので、非常に高い技術が求められるのです。そこで使われる技術が「ナノスケールサーボ(高速度、高精度で位置決めをする技術)」です。例えば、基板を目に見えないぐらい浮かし、摩擦をなくしてゆがみの影響が出ないように制御するなどの技術が導入されています。

液晶画面以外の利用

この技術は、原子間力顕微鏡というナノレベルの顕微鏡にも使われています。これは、針の先端を試料に近づけ、試料を動かし針が凹凸を検知して、試料表面の様子を再現するものです。針と試料の表面に働く原子間の力を一定に制御することで表面の様子を知ることができます。従来は1枚の写真を撮るのに時間がかかっていましたが、現在は誤差の情報を利用して正しい情報を得る「推定理論」によって、10倍も速くなりました。機械を変えずにソフトとインタフェースを変えるだけでこれだけ性能を向上させることができたのです。
液晶画面の製造工程の中で最も精密な設備にナノスケールサーボ技術が採用されており、その装置のシェアは日本がその多くを占めています。まさに日本が世界に誇る技術なのです。

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東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 准教授 藤本 博志 先生

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メッセージ

工学部をめざすなら、物理や数学を一生懸命に勉強しなくてはならないのはもちろんですが、意外に大事なのがコミュニケーション力です。物をつくるのは一人ではできないからです。さらに、体力と情熱、新しいことをやりたいという熱意が必要です。そして最も重要なのは、何事もあきらめないことです。新しい技術に問題が出るのは当たり前のことです。だからといって、元に戻るのでは科学は進歩しません。新しい技術から出てくる新しい問題を解決するのは、“さらに新しい技術”なのです。

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