安全で健康な暮らしを守り支えていくための技術
ケガのダメージを様々な方法で予測
傷害バイオメカニクスとは、交通事故やスポーツ中の事故で人体がどのようなダメージを受けるのかを研究する学問です。例えば、車にはねられた歩行者は頭部にどんな衝撃を受けるのか? 柔道できちんと受身をとれば頭頸部の保護にどれほど役立つのか? という問いに対し、即座に正確な答えを提示することは困難です。そこで、コンピュータ上でシミュレーションするほか、人体のダミーモデルを使って実験したり、生体材料に力学的な負荷を加え、どのくらいの強度があるのかを調べたりします。ただし、生体材料には個体差や年齢に由来するバラツキがありますので、何を目的にどう計測するのかを予め検討し、場合によっては試験装置を自作する必要があります。苦労して得られた結果が予想と外れていることや従来の見解と矛盾していることもあるため、その解釈も一苦労ですが、それら全てのプロセスがこの研究のおもしろさでもあります。
軽視されがちなスポーツ中の脳震盪
交通外傷であるかスポーツ傷害であるかを問わず、頭部に衝撃が加わると頭蓋内の脳組織は変形し、それが神経線維に伝わって脳の損傷を引き起こします。脳の損傷は組織の変形が大きいほど重症化するものと予想されますが、そのダメージは蓄積されるとの報告もあり、近年ではスポーツ中に起こる脳震盪(のうしんとう)のように軽微な脳損傷にも注目が集まっています。
より複雑なシミュレーションも可能に
現在は計算機性能が飛躍的に向上し、大規模な数値モデルを扱えるようになってきました。中枢神経系組織を例にとれば、単に脳や脊髄のマクロ形状を忠実に再現するだけでなく、個々の組織を細かく区分すると共にその微視的な構造や力学特性を含めてモデルに反映、様々な条件下でシミュレーションすることが可能となりつつあります。将来的には重篤な損傷に限らず、日常生活レベルのケガや疾患を対象として力学的な視点から受傷メカニズムを解明し、更にはその対策に役立つシミュレーションを行うことも可能になっていくことでしょう。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 工学部 機械物理系学科 教授 田村 篤敬 先生
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