生体内の「酵素」を産業の発展に役立てる
生体の「化学反応」をつかさどる酵素
生体内では、生命を維持するためのさまざまな「化学反応」が行われています。例えば、胃や腸ではタンパク質や炭水化物が消化によって別の物質に分解されます。また、紫外線を浴びると、体を防御するために皮膚を黒くするメラニン色素が合成されます。このような活動をつかさどるのが「酵素」です。酵素は、生体の化学反応を引き起こしたり、エネルギーや必要な物質を作ったりする作用があります。酵素がなければ、生命活動は維持されません。
酵素は生命活動を無駄なく効率的にする
このように生体にとって欠かせない酵素ですが、必要な相手としか反応しないという特色があります。例えば、消化酵素の中には、タンパク質にしか働かない消化酵素があります。ほかの物質があっても、一切反応しません。また、多くの酵素は遺伝子の働きによって、必要な時、必要な場所でしか生成されません。したがって、酵素は無駄な反応を引き起こすことはなく、生命活動は無駄なく効率的に行うことができます。しかも、実験室の化学反応のように酸やアルカリにしたり、熱を加えたりといった工程を経ずに、複雑なことを一挙にやってのける優れものなのです。
産業の発展にも寄与する酵素
このような優れた仕組みを持つ酵素を、ほかの分野に利用しない手はありません。実は、医療や食品、ものづくりの分野で生体の酵素が利用されています。血糖値センサーという製品があります。糖尿病患者は血糖値管理が重要ですが、血液を採取して分析するのでは時間がかかりすぎます。ブドウ糖だけに反応する酵素をセンサーに組み込んだこの製品は、携帯できて、しかも指を触れるだけでいつでも血糖値を測定できます。また、食用肉をアミノ酸に分解して、カップラーメンの調味料を作る場合に消化酵素が利用されています。酵素研究は生命活動の神秘が明らかにするだけでなく、産業の発展にも寄与することができるのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 農芸化学コース 教授 有馬 二朗 先生
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