がんの転移から命を守る~小さなRNA分子が示す大きな力~
がん治療の難題は転移を止めること
がんは、早期に発見して治療すれば治る病気になりつつあります。しかし、多くの遺伝子変異を蓄積したがん細胞が増え続けると、やがて別の場所に転移してしまうのが難題です。転移したがん細胞は、極めて悪性度の高い細胞であり、いわば「がん」の超エリート。がん転移は、命を脅かします。多くの抗がん剤が開発され効果を上げてきましたが、がんの転移をくい止める薬はまだ実現していません。転移を防ぐことは、「がん」との戦いに勝利することを意味します。
タンパク質にならないRNAはガラクタ?
RNAは遺伝子の情報を写し取って身体の構成要素であるタンパク質をつくりますが、2003年にヒトゲノム(ヒトの全遺伝情報)の解読が完了した際、タンパク質になる情報を持っていない領域がなんと全体の98%もあることがわかり、そこから生成される多くのRNAは当初、役に立たないガラクタと考えられていました。ところが近年の研究で、そういったRNAが細胞内や体内の環境を維持するために重要な役割を担うことが明らかになってきたのです。そのうちの一つがマイクロRNAと呼ばれる小さな分子です。
マイクロRNAには、タンパク質をつくる量を調節する機能があります。がんとの関係を調べると、胃や腸、食道などがんができる場所によって、特定のマイクロRNAが正常な状態より増えたり減ったりしていました。
マイクロRNAに秘められた大きな力
骨肉腫という骨のがんは、肺に転移する特徴を持っています。骨肉腫細胞を調べたところ、miR-143と呼ばれるマイクロRNAの減少が転移と関連することがわかりました。マウスで実験を行ったところ、miR-143を与えたマウスの8割は骨肉腫の肺転移を予防しました。この結果は、マイクロRNAの量を調節することで、がん細胞の増殖や転移を防ぐ可能性を示しています。
マイクロRNAなど「核酸医薬」と呼ばれている治療薬は、次世代バイオ薬品として大いに期待されているのです。
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鳥取大学 医学部 生命科学科 准教授 尾崎 充彦 先生
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