医療現場におけるルールのあり方を考える
治療に対する同意の有無を判断するのは難しい
治療に際しての患者本人の同意は、臓器移植のケースなどを除くと、法律の明文で要求されているわけではありません。日本医師会で定められた内部的ルールがあるにとどまっています。ただ、同意を得ずに医療機関が手術をすれば、不適法な行為として傷害罪などに問われ刑事責任を追及される可能性もありますし、不法行為となって損害賠償を請求される可能性もあります。成年の判断能力のある者に対する治療について、本人の同意が要求されるべきであることは明らかです。そのような状態にある場合には、自分のことは自分で決められるという自己決定権が尊重されるべきだからです。しかし、同意の要請についての明文の規定がないため、心変わりする可能性のある患者から、どのようなやり方でいつ同意を得ればよいのか、意識を失っている人への治療行為や未成年者への治療行為について誰の同意が必要なのかといった、簡単には結論を導き出すことができない問題が多く残されています。
「同意が必要」という法律はない
また、患者の意思がそのまますべて反映されるべきなのかも問題です。「苦しむのは嫌だから早く死なせてくれ」といった意思を患者が表明しているときに、医療機関がその患者の言う通りに行動してもよいのか、どこまで、患者本人の意思に委ねるべきなのかは、極めて難しい問題です。
広い視野で議論を
海外では、このような問題に対してきちんと法律の明文で規定を置く国が増えてきています。どのような結論が最良であるか、答えを出すのは難しいことであるし、その答えは永遠に出せないかもしれません。しかし、あらゆる意見の根拠を国民の多くがきちんと理解をして議論し、国会を通して現段階におけるルールを作ることが、患者にとっても、また、患者の意思に対応しなければならない医療機関にとっても必要でしょう。
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先生情報 / 大学情報
立正大学 法学部 法学科 教授 澤野 和博 先生
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