限られた手がかりから亡くなった人の声を聞く法医学の世界
「法医学といえば殺人事件」なのか
法医学は医学の分野のひとつです。臨床医学が生きている人を治療するのに対し、法医学は主に亡くなった人の死因や死亡状況などを判断します。ドラマなどの影響もあって、法医学で扱う遺体は殺人事件の被害者と思われがちですが、実際には約7割が病気による突然死です。人が病院で亡くなった場合は臨床医による死亡確認が行われ死亡診断書が発行されますが、病院外で突然死した場合は診断書が書けません。そのため遺体が死因究明機関に送られて、法医が検死や解剖で死因を特定することになるのです。
心臓性突然死の死因を特定するには?
法医学で扱う病死の中で一番多いのが心筋梗塞(こうそく)などの心臓性突然死です。働き盛りの人が突然亡くなってしまうケースも少なくありません。心筋梗塞の場合、生きている患者さんであれば心電図検査や血液検査などを利用して診断できますが、亡くなった人の場合は心電図が取れず、血液検査の結果も不正確なものになってしまいます。そのため心臓の組織やタンパク質の組成を見ることで診断を確定させます。診断の手がかりが限られているため、以前は死因不明となるケースも多かったのですが、近年は質量分析など新しい分析法が次々開発されて、死後診断の精度が高まってきています。
死から学び生へ繋げる医学
法医学の今後の課題のひとつは、亡くなった人から得た情報を生きている人に生かすことです。例えば、心臓性突然死のサインとなる「心肥大」という現象があります。これは心臓の筋肉が厚くなる現象で、高血圧などの人に起こりやすく突然死の原因となる「病的心肥大」と、肉体労働をする人などに起こりやすく健康面に大きな影響のない「生理的心肥大」があります。法医学の研究によって病的心肥大を判別する方法が見つかれば、突然死の予防に役立ちます。こうした法医学と臨床医学の連携によって、さらなる医療の発展が期待されています。
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東海大学 医学部 医学科 教授 垣本 由布 先生
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