がん増殖のライフライン「血管新生」を食い止めろ!
血管はがんのライフライン
日本人の死亡原因となる病気の1位は、がんです。がんが危険になるのは、数ミリ以上の大きさに増殖してからです。正常な細胞ががん細胞に変異すると、数ミリ以上に増殖する際、酸素や栄養分を運んでくれる血管を作り始めます。つまり、近くの正常な血管から輸送路を作るため、「血管新生因子」を分泌するのです。新しい血管を作ることは傷を治したりするために不可欠なイベントですが、がん細胞は自らのライフラインを確保するため、これを利用します。やがて血管を通ってがんの転移が起こり、命をおびやかすのです。リンパ腫のような血液のがんでも、とどまって増殖すると血管新生を起こします。
血管内皮細胞もがんの影響を受けている
がんが作った血管は、秩序がなく病的な構造をしています。がんの増殖に血管新生が必要なことは、ハーバード大学のフォルクマン博士が提唱し知られるようになりました。血管は受け身ではなく、むしろ積極的にがんを支え、転移を誘導してしまうという、非常に複雑な性質を持っていることがわかっています。
後に判明したのは、がんが作った血管は、内皮細胞も異常であることです。血管の一番内側にあり、血流に触れている壁面が血管内皮細胞です。正常な血管の内皮細胞と比べ、がんの場合は核が異常に大きいこと、薬剤耐性を持っていることなどがわかっています。低酸素状態に陥っているがん組織のなかで、血管も影響を受けているのです。
血管新生を制御し、がんを制するには
研究によって、がんのタイプによって血管内皮細胞の状態が違うことが解明されつつあります。がんの血管内皮細胞が分泌する物質は、がん患者の予後の治療にも影響するため、がんを転移させないためにも、内皮細胞の抗がん剤への薬剤耐性を解除する分子標的治療薬の開発をめざして研究されています。正常な組織や血管にダメージを与えることなく、がんを養っている血管にだけ効くような薬の開発が進められています。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 大学院歯学研究院 口腔病態学分野 血管生物分子病理学教室 教授 樋田 京子 先生
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