マクロとミクロのあらゆる物理現象をつなぐ「統計力学」
カフェオレにも働く物理法則
コーヒーにミルクを注ぐと徐々に混ざり合い、カフェオレの状態になります。こうした変化は熱力学のエントロピー増大の法則(熱力学第二法則)にのっとったものです。目に見えるさまざまな現象は、マクロの世界の物理法則に支配されています。一方、物体を構成する原子や電子は、量子力学というミクロの世界の物理法則にのっとって運動しています。つまりマクロの物理現象は、ミクロの物理現象によって発生しているのです。そこで、ミクロな量子力学の見地から、エントロピー増大の法則などのマクロな熱力学を示すために、ミクロとマクロを繋ぐ「統計力学」の研究が進められています。
量子シミュレータを活用して法則を検証
統計力学は古くからある学問ジャンルで、多くの基礎理論や公式は大学の教科書にも載っています。しかし、その基礎が本当に正しいかどうかを検証するのは、簡単なことではありません。原子や電子の振る舞いは量子力学で説明できますが、物体を構成している原子や電子の数は膨大であり、そのすべての動きを把握することは不可能だからです。そこで近年、量子コンピュータ開発のために構築された量子シミュレータを、統計力学の研究で活用する取り組みが始まっています。
量子シミュレータの研究から量子コンピュータへ
飛行機の性能は、翼の形の少しの違いで大きく変わります。新型機の設計をするためには流体力学に基づいて空気の動きをコンピュータでシミュレーションをしたいのですが、それは極めて困難です。そのため、ミニチュアを作成して実験を行うことでシミュレーションを行います。同じようなアイデアが、量子力学でも採用されており、原子の集団の動きをシミュレーションする量子シミュレータを用いた研究が進められています。統計力学が、量子コンピュータ開発に直接関わるわけではありませんが、量子シミュレータを使った物理理論の研究が発展することで、量子コンピュータの実用化にも弾みがつく可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 理学部 物理学科 講師 伊與田 英輝 先生
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物理学、熱力学、統計力学、量子力学先生が目指すSDGs
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