まるでおせっかいなおばちゃん? 狙った反応を起こす「触媒」
触媒はおせっかいなおばちゃん
ある空間に若者4人と、おせっかいなおばちゃんが1人いたとしましょう。おばちゃんのおせっかいにより、2組のカップルができ上がりました。このとき4人の人間関係は変化していますが、おばちゃん本人は何も変わっていません。このおばちゃんのように、ある特定の反応を促進させるものの、それ自身は変化しない存在が「触媒」です。触媒には、生物の体内にある酵素のような生体分子触媒と、アミノ酸や石油などから人工的に作られる小分子触媒などがあります。
意図通りの反応を促すためには?
生体分子触媒は、多くの化合物が存在している場所でも特定の化合物のみの反応を促しやすい点が長所です。しかし、利用するにはコストの高さや構造の改変が難しいなどの課題もあります。一方、小分子触媒は低コストで合成でき、構造の改変も比較的簡単です。ただし、選択的に意図した反応だけを起こすよう制御することは困難です。
小分子は構造が変われば機能も変わります。時には左右に結びつく化合物が入れ替わるだけで、薬だったものが毒に変わってしまいます。医薬品の材料に用いられる場合、有益な反応を高確率で出せなければ安全な薬を作ることができません。そこで小分子をつなげて大きくし、ポケットのような構造を持つ小分子触媒を作る研究が行われています。ポケットには特定の化合物のみがフィットするため、意図した反応のみを促し、そうでない反応を抑えることができるのです。
テクノロジーを駆使した未来の触媒研究
目的とする物質の選択性とその反応性がより高い新たな触媒の開発にはAI(人工知能)も活用されています。これまでの実験やシミュレーションの結果をAIに学習させ、小分子触媒の最適な構造を予測するのです。また、小分子触媒の合成を自動合成ロボットで行う試みも始まっています。AIが最適な触媒を考え、それを機械が合成する未来が実現すれば、人間はよりクリエイティブな作業に集中できるようになるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(ICReDD) 特任助教 辻 信弥 先生
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