ユーカリの毒に負けないコアラの秘密

ユーカリの毒に負けないコアラの秘密

みんな毎日、毒を食べている

カレー粉、肉、じゃがいも、たまねぎ、サラダ油など、カレーの材料の中で毒があるのは? 答えは「全部」です。食べ物や飲み物はどれもさまざまな化学物質からできており、毒でない化学物質はありません。何を食べても飲んでも、空気を吸っても、私たちは毒を取っています。それでも元気でいられるのは、毒を体の外に出す解毒(デトックス)の力があるからです。その力を超える量の毒を取ると、中毒などの症状が起こります。水も酸素も薬も、取りすぎは体に悪いのです。

毒を作る植物、デトックスする動物

植物の花が咲いたり枯れたり、実ができたりするのは化学物質の働きです。そうした化学物質の多くは、イヤなにおいを出したり、おなかを壊すような毒があったりします。それにより、動物に食べられないようにしているのです。
コアラの主食は、毒性が強くほかの動物が食べないユーカリの葉です。コアラはにおいや味から毒が少ない葉を選べる上、2メートルもある長い盲腸で毒性成分を分解できます。1日のうち22時間を寝て過ごすのも、ユーカリの葉のカロリーが低いためです。近年の研究で、ユーカリは過去にFPCsという新たな毒性成分を作り出してコアラに食べられる率を下げたこと、さらにその後、コアラがこのFPCsまでも分解できるようになったことが報告されています。このように、身を守るために植物は毒を作り、動物は毒をデトックスしているのです。

解毒の力が弱い動物もいる

ネコ科の動物や、アザラシ、ペンギンなど肉食・魚食の生物は、雑食・草食の生物に比べて解毒酵素の働きが弱いことがわかっています。おそらく強い植物の毒を食べないためで、ネコが薬に弱く、薬中毒になりやすいのも解毒能力が低いからです。
解毒の酵素や仕組みは動物の種類による違いが大きく、わかっていないことがたくさんあります。どんな動物がどんな化学物質に弱いのか、動物の体内に入った毒がその後どうなるのか、さまざまな毒性学の研究が行われています。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 獣医学研究院  教授 石塚 真由美 先生

北海道大学 獣医学研究院 教授 石塚 真由美 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

毒性学、獣医学、環境毒性学、薬学

先生が目指すSDGs

メッセージ

人、動物、環境の健康を一つのものとして考え、守っていく「ワンヘルス」という考え方があります。獣医学部の毒性学の学びは、動物と人、動物と環境をつなぐためにとても大切なものです。動物が好き、虫が好き、花が好きなど、あなたの「好き」はこうした研究の糸口になります。実際に本校の学生はゾウが好きでタイの研究者と共同研究をしたり、鳥が好きで鳥類の腸内細菌の研究をしたりしています。あなたの好きなことについてどんな研究ができるのか、一緒に見つけていきましょう!

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。