日常生活の中のふとした疑問から言語を科学する

日常生活の中のふとした疑問から言語を科学する

ことばにしないコミュニケーション

「空気を読む」という表現は、今やすっかり定着しています。これは他者の意思がはっきりとことばに表されていなくても、その「場」や「状況」から必要な推論をして適切な行動や発言をすることを意味します。現代の日本では「空気が読める」ことが重視されますが、一方でそのように推論を利用するやりとりは高度なコミュニケーション技術でもあり、うまくできないという人もいます。何かを頼むとき、「~できますか?」という疑問文を使うことがよくありますが、真意は「~してもらいたい」という依頼です。このようなやりとりの背後にある伝達や解釈の仕組みを研究するのが言語学の中の語用論という分野で、文脈からわかる意味を「推意(すいい)」と呼びます。

言語を科学する「言語学」

言語学は、ことばそのものを分析する、言語の科学です。そして、ことばの使われ方や伝達の実態を調べて解明していくのが語用論です。ある言い方で理解にずれや誤解が生まれるのはなぜか、社会や文化の変化につれてことばの使われ方がどう変わってきたのか、などことばにまつわるさまざまなことを研究します。前述の推意をはじめ、人が発話を伝え、理解する方法を科学的に分析することで、より人間的なことばへのアプローチが可能になるのです。
私たちが普段何気なく使っている表現も、以前は使い方や意味が異なっていたり、そもそも存在していなかったりすることもあります。特に最近はテクノロジーとともに新しいことばが生まれています。Twitterでの「なう」もその一例です。

研究のテーマやヒントは無尽蔵

言語学や語用論の面白さは、自分たちが日常的に使っていることばの中に、新たな規則性や論理性を見つけられることにあります。研究のテーマは日常生活の中のふとした疑問から始まります。研究テーマが尽きることはありません。言語の科学と言うと無機質に聞こえますが、人のコミュニケーションに欠かせないことばの研究は、実は人間的な学問なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 文学部 人文科学科 教授 加藤 重広 先生

北海道大学 文学部 人文科学科 教授 加藤 重広 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

言語学、語用論

メッセージ

私はもともとフランス文学に興味があり、高校生の頃は小説家をめざしていました。そんな中で、国語の先生の「君たちが習っている学校文法は、たくさんある文法のひとつなんだよ」ということばにショックを受けたのです。学校文法が絶対ではないなら、その向こう側にある「真実のことばの姿」を知りたいと思い、文法をはじめさまざまなことばの性質が学べる言語学に興味を持ったのです。ことばは意思を伝える重要な要素であるとともに、言語学はいろいろな分野の基礎となる学問です。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。