危険な一酸化炭素の代わりになる便利な化合物とは?
便利で危険な一酸化炭素
工場や大学の実験室では、日々たくさんの化学合成や化学実験が行われています。その過程でよく使われる化合物に、一酸化炭素(以下CO)があります。例えば酢の成分である酢酸も一酸化炭素を使って大量生産されており、ほかにも多くの化学物質の材料に使われています。とても使いやすい半面、COは非常に高い毒性をもっています。普段はガスボンベに入れられていますが、無色無臭なので漏れていても気付きにくく、日常の管理やボンベから取り出す際の操作に多くの手間とコストがかかることが課題です。しかし、2012年にCOと変わらない働きをしながら、極めて毒性が低い化合物が開発されました。
反応はそのままでより安全に
数種類開発された中で、構造が最もシンプルでよく使われているのがギ酸フェニルです。ギ酸フェニルにはCOが取り込まれており、普段は毒性を発することはありません。化学反応を起こしたいときに、弱塩基を加えて刺激を与えることで一酸化炭素が発生します。弱塩基は大学の実験室ならどこにでもあるトリエチルアミンという物質を使うことができるので、管理やコスト面でも大きなメリットがあります。肝心の化学反応においてはCOと同じように働いて邪魔をすることもなく、時には反応をより加速させることもあるのです。
幅広い分野に応用
以前から、ギ酸フェニルと非常によく似た構造の物質がCOの代わりに使えることはわかっていました。しかし、すぐに分解してしまうなど安定性が悪く、そこからCOを取り出す際もとても過酷な条件をつくることが前提であり、実用性に欠けていました。その点、ギ酸フェニルは「取り扱いやすい」「COが簡単に取り出せる」「安定している」という3つの条件を兼ね備えています。発表後は製薬会社をはじめ、マテリアル関連企業で開発や製造に使われているほか、世界中の多くの大学・研究機関における基礎研究や応用研究にも導入されています。
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静岡県立大学 薬学部 薬科学科 教授 眞鍋 敬 先生
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