有機分子のヒカリで、広がる可能性とは?
見えないものを見る
人の目がモノを見るとき、そのモノ自身が明るい場所で色を呈しているか、暗い場所で光っていなければ見えません。検出したいモノが目に見えないとき、有機化学の力を借りることで、解決できる場合があります。例えば土壌の中や河川に、目に見えない有害な重金属イオンが含まれているとします。効率よく検出するために、重金属に応答して光る有機分子を加え、重金属イオンの存在を可視化するのです。
有機分子で光らせる?
ここで行っているのは、有機合成化学という学問で、昨日まで世界に存在しなかった有機分子を、自分の手で生み出すことができます。例えば、ある有機分子に酸素原子を一つ加えるだけで、その分子の性質がガラリと変化します。ただ光らせるだけでなく、圧力で発光の様子が変化するなど、物理的な刺激で性質の変わる化合物の作成も可能です。
こうした有機分子は、ほかの専門分野に生かすことで力を発揮します。例えば生物の分野で、顕微鏡で細胞内のミトコンドリアや細胞核などを観察する場合、光る有機分子を局在させることで可視化することができます。
がん治療にも光が
さらに応用して、がん治療につながる可能性もあります。例えば光線力学療法は、光増感剤と呼ばれる物質を薬剤として投与し、悪い部分に光を照射することで光化学反応を引き起こし、腫瘍(しゅよう)組織を壊死させるものです。メリットは、腫瘍を切除する手術より、体への負担が少ないことです。さらに、今は期間をおいて行われる診断と治療を、将来的に一緒に行ってしまう構想もあります。それによって、がん治療におけるQOL(生活の質)向上につながることも期待されています。ほかにも、アルツハイマー発症の原因物質と考えられているタンパク質、アミロイドβの蓄積を防ぐことにも、光化学反応による処置が検討されています。有機分子による光化学反応は、分野を横断して役立つと期待されているのです。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 理工学部 理工学科 応用化学システムコース 准教授 八木下 史敏 先生
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