鳥の歌と人間の言語獲得は似ている?
小鳥の歌声ができあがるまで
生まれたばかりの小鳥は、食べ物をねだって鳴く(ベッギング・コール)ことはあっても、歌うようにさえずることはしません。親鳥のさえずりを聞いて学習し、ある成長段階で歌声が完成するのです。この仕組みは、動物の行動観察と遺伝子や細胞レベルでの解析をミックスした、「分子神経行動学」という新しいジャンルの学問によって解明されようとしています。
鳥の歌声には、例えば「ABAB」と同じフレーズを繰り返しているものから「ABCDCDBDADB」などかなり複雑なパターンをもつものまで、さまざまなさえずり方があります。また春先に「ホーホケキョ」と聞けばすぐウグイスとわかるように、種による特異性もあります。
ですが、どんな歌でも究極的には2つの目的に集約できると言われています。すなわち「縄張り宣言」と「求愛のためのラブコール」です。
人間がしゃべるメカニズムへの応用
社会構造や言語がもっと複雑な人間の場合でも、鳥の鳴き方と共通している部分が多く見られます。赤ちゃんが泣いて空腹を知らせるのは鳥のベッギング・コールと類似性があるのではないかと言われていますし、単語から文節、文章へ話し言葉が発達していく段階も、鳥の歌声が完成する過程に似ていることが指摘されています。
これまで「モデル生物」として実験に使われてきたマウスやラット、ゼブラフィッシュといった生き物には、このようなボーカル・ラーニング(発声学習)をするものはありませんでした。ですから、今進んでいる小鳥(ソングバード)の研究は、人の言語学習・教育に何か画期的なものをもたらすモデルになるのではないかと期待されているのです。まずは個体差や状況による変化を見るために複数の鳥を同じ環境下に置き、コンピュータでの鳴き声分析や、脳の遺伝子レベルでのデータを集める研究が進められています。遺伝子から神経細胞、神経細胞から神経回路、神経回路から脳、脳から行動へと、階層的に研究を進めていくことが分子神経行動学の特徴です。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 理学部 生物科学科 生物 准教授 和多 和宏 先生
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