人工光合成の効率アップへ 多電子触媒のエースの座は?
エネルギー問題を解決する人工光合成
光合成とは、光エネルギーを使って環境中の物質を別の物質に変換することです。植物は光合成によって自身が生きたり成長したりするために必要な栄養素を二酸化炭素から作っています。人間も再生可能エネルギーである太陽光のエネルギーを水素や有機燃料といった社会に利用しやすい形に変換できれば、エネルギーの枯渇を心配する必要がなくなります。植物のように二酸化炭素を原料として使えれば、地球温暖化の抑制にもつながります。
変換効率の鍵を握る多電子触媒
人工光合成は大きく二つのプロセスに分けられます。太陽光を集めるプロセスと、集めた太陽光のエネルギーを化学エネルギーに変換するプロセスです。光触媒は光の捕集に優れた材料ですが、光触媒だけでは十分に反応を起こせないため、合わせて他の触媒を利用する必要があります。二酸化炭素の変換や、水を分解して酸素を得るといった変換プロセスの鍵となる反応は、複数の電子がまとめて移動する多電子反応です。この多電子反応を進める触媒なので「多電子触媒」と呼ばれます。
人工光合成の研究が始まってから50年ほどたちます。どの元素を使ってどのように多電子触媒を設計すればよいかについては、ある程度の経験則は得られていますが、根本原理はまだ正確には把握されていません。
基礎研究からブレークスルーを
多電子触媒の候補の一つが鉄の化合物です。将来的に人工光合成を色々なところで利用するには、地球上に豊富な元素を活用することが望ましいからです。水から酸素を出す反応に酸化鉄を使う研究では粘り強い検討の結果、Fe4⁺を効率よく作れると反応が促進されることがわかりました。一方で、同じ酸化鉄でも組成や結晶構造には多様な種類が存在し、Fe4⁺を作りやすい触媒の設計方法を明らかにするには、柔軟なアイデアのもと実験やシミュレーションなど様々な観点からのさらなる検討が必要です。
人工光合成の実現には、基礎研究が欠かせません。試行錯誤を繰り返しながら、世界中で研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
山梨大学 工学部 工学科 クリーンエネルギー化学コース 准教授 髙嶋 敏宏 先生
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先生への質問
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