確率がつむぎだす歌詞とメロディ 数学を用いた音楽づくり
歌謡曲を自動で作詞作曲
歌詞とメロディで人の心を揺さぶる日本の歌謡曲を、数学の理論を用いてつくり出す研究が進んでいます。ある自動作詞作曲システムでは、開発当時までのNHK紅白歌合戦で歌われた約3千曲の歌詞が学習データとして使われました。「夏」や「出会い」といったキーワードを入力すると、システムがキーワードに合わせて作詞をしてくれるのです。システムの開発に用いられたのは、数学の「確率」でした。
確率が導き出す歌詞の世界
歌詞をつくるシステムにおいて、まず登場するのは「バイグラム確率」です。ある単語の隣にどんな単語が出てくるかを表す確率で、例えば「夏」のあとに「の」「が」「に」などがくる確率が推定されます。加えて、ある単語が入ったフレーズ内の離れた場所にどんな単語が出るかを表す「単語共起確率」によって、例えば「出会い」が入ったフレーズ中に「春」「別れ」などがくる確率が推定され、歌詞が導き出されます。確率で出てくる歌詞のなかには、「青いイチゴ」のように実在しないものや、人間が思いつかないものなどがあり、かえって作品に深みが生まれる場合もあります。その歌詞に基づいて、「隠れマルコフモデル」という確率モデルを用いてメロディがつくられます。日本語の特徴として「亜細亜」「大学」と「亜細亜大学」のように単語がつながるとアクセントが変わるケースがあります。日本の歌謡曲には歌詞のアクセントとメロディの音程変化を一致させる作法があるため、先につくった歌詞にあわせてメロディをつくるシステム設計になっているのです。
数学で芸術をつくり出す「音楽情報処理」
このような「音楽情報処理」は比較的新しい領域であり、近年のAIの発達もあり研究がますます活発になっています。自動作詞作曲システムの他にも、ギター演奏において何万通りもある指の動き(運指)から、曲に合わせて最適な運指を選ぶシステムを開発したり、膨大な量の歌詞を分析して時代性を考察したりと、人の心に届く音楽づくりに数学の力が役立っているのです。
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