「法的に責任を取れない人」が行った不法行為の責任は誰が取るのか?
責任を取れない人もいる
事故等で他人に損害を与えたとき、加害者が被害者に対して損害を賠償する「責任」を負うことは、法律で定められています。
一方、精神上の障害等で自分の行動やそこから生じる責任を理解できないため、責任を負わせるべきでないと考えられる人もいます。法律では、そういった「責任無能力者」が責任を負わない場合、原則として「責任無能力者を監督する義務がある人」が責任を負うものとされています。
家族は責任を負わなくていい?
2007年、認知症の高齢男性が徘徊中に電車にはねられて亡くなり、発生した列車の遅れ等に関し、鉄道会社が男性の家族に700万円余の損害賠償請求を求めた裁判がありました。
一審では男性の妻と長男に、二審では妻に賠償を命じる判断が示されたものの、2016年、最高裁では、妻と長男には男性を監督する法的な義務がなかったとして「妻にも長男にも賠償責任なし」という判決が下されました。認知症患者の介護に家族で取り組むケースも多い中、家族が常に責任を負うとは限らないことを示したこの判決は、社会的なインパクトが大きく、広く報じられました。
しかし実は、この判決の考え方を押し拡げると、「介護に積極的に関わると監督義務が認められる可能性がある」等として介護を放棄する家族が出るおそれもあり、難しい問題をはらんでいます。
よりよい社会をつくるために
鉄道事故の裁判例をめぐっては、民法学者を中心に様々な議論が行われています。ドイツでは、責任無能力者に資産がある場合、その資産から賠償をさせる制度があり、日本でも参考にできるのではないかという意見も見られます。
また、法律でカバーしきれない部分を行政が支援する動きもあります。例えば、神戸市では、認知症患者による損害を補償する保険加入等を市がサポートする「神戸モデル」が作られました。
少子高齢化が進み、介護の大変さが高まる中、人々がよりよい暮らしを行うためにどのような社会の基盤作りに取り組むべきか、様々な角度からの検討が求められています。
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