合成経路のデザインで分子合成の新たな道を開く
世界を変えてきた合成化学
人工的に有機化学合成された新しい物質、特に炭素と水素を主要な成分とする芳香族分子の合成で生まれた物質は、これまでも生活用品、半導体の材料、薬剤など、さまざまな新しい製品となり、世界を変えてきました。
それを可能にしたのは、分子同士をつなげる化学反応(合成法)の開発です。中でもクロスカップリング反応(異なる分子を結合)、クリック反応(複数の分子を簡単に結合)には、その世界に対する貢献度からノーベル化学賞が与えられました。
「合成経路」の設計
有機化学合成では、そのような新しい反応の開発と同様に、「合成の経路」の探索、開発も重要です。一つの物質を合成するときは、いろいろな分子を一度に一気にくっつけるのではなく、Aという物質からBをつくり、BからCをつくり、というようなプロセスを経て、目的の物質が出来上がります。クロスカップリング反応やクリック反応を使って、どのような物質をどういう経路で合成するかという「合成経路」の探索や設計(デザイン)次第で、難しいとされてきた合成が可能になるのです。
樹状の分子の付加でクリア
例えば最近では、難溶性の芳香族ポリマー(高分子)の合成経路が開発され、これまで合成が難しかった分野に道を開きました。芳香族ポリマーは一枚のシートのように剛直な構造を持っています。通常、化学合成の際には有機溶剤に溶かすことが必要ですが、平らに重なり合った塊になって溶けにくいため、合成が難しかったのです。
そこで、芳香族ポリマーに樹状の分子を一つ取り付け、重ならないような構造の分子をつくることで合成を容易にしました。複数のひも状の分子を取り付ける方法はこれまでにもありましたが、それを一つに束ねたようなカタチにすることで、付加したひも状分子の影響で物質の性質が変わってしまう問題をクリアしました。樹状の分子は切断や置き換えも可能です。この方法で合成できるさまざまな物質は、新しい機能があると予測されており、今後の応用が期待されています。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所・理学部 准教授 八木 亜樹子 先生
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