地球の未来を救う、低コストのアンモニア合成法

人類を飢餓から救ったアンモニア合成法
アンモニアは窒素と水素の化合物です。1900年代、ハーバーボッシュ法という、触媒を使った合成法の発明で大量生産が可能になりました。その方法により世界で年間1.5億トンも生産され、その8割が化学肥料になります。つまり、食料生産を担う重要なアンモニア合成法として人類を飢餓から救ったとも言われており、現在の世界人口の約4割がその恩恵にあずかっています。
画期的な化学構造の新触媒
ハーバーボッシュ法では500℃、200気圧といった高温高圧が必要なことが課題でした。それを解決するべく、新たな触媒が開発されました。350℃程度、50~100気圧で、より高濃度のアンモニアを合成するための触媒です。
この開発では、主な触媒であるコバルトナノ粒子の周りを、その機能を高める酸化バリウムで囲むという構造にできたことが成功のカギでした。さらに、ジャングルジムのような構造の炭素の枠に、触媒をうまく分散して固定することにも成功しました。炭素の枠のすきまを窒素と水素が通り抜け、Coナノ粒子の表面で触媒反応が起こる仕組みです。コバルトと酸化バリウムの組み合わせは従来もありましたが、こうした構造の工夫によって、何倍も効率的な触媒ができたのです。
CO₂削減や水素社会実現に貢献
アンモニアは肥料として重要なだけでなく、二酸化炭素を出さない次世代のクリーン燃料としても注目されており、火力発電所で使う石炭の代替となると見込まれています。また、燃料電池車などに使う「燃料としての水素」は、液化して運ぶにはコストがかかるため、水素よりも容易に液化できるアンモニアの状態で運び、それを分解して水素を取り出す方法も検討されています。
このようにアンモニアを地球にやさしい燃料として使用すると、その需要は今の100倍にもなると見込まれています。その意味で、より低コスト、高効率のアンモニアを合成する触媒の開発は、ハーバーボッシュ法が人類を飢餓から救ったように、地球を温暖化の危機から救うかもしれません。
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名古屋大学工学部 工学研究科 化学システム工学専攻 教授永岡 勝俊 先生
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