化学合成の世界を変える!? 芳香環メタモルフォシス
無機物から有機物を生み出す
1828年、ヴェーラーという化学者が、無機化合物であるシアン酸アンモニウムから有機化合物の尿素を作りました。これにより、生命と無関係な無機物から、生命体しか作れないと考えられてきた有機物を化学合成できることが証明され、有機化学という学問が誕生しました。以来、さまざまな物質を化学反応させて、プラスチックや液晶のような化学品からかぜ薬などの生物機能を制御する医農薬まで、炭素を鍵元素とするさまざまな物質を生み出してきました。身の回りを眺めてみると、我々は有機化学の力で作った物質なしには生きていけないことがわかるでしょう。
非常に頑丈で強固な芳香環
有機化学で非常に重要な分子骨格として、芳香環があります。「亀の甲」で知られるベンゼン環に代表される芳香環は、非常に頑丈で安定な分子骨格である点が特徴です。芳香環はさまざまな製品に応用されています。例えばペットボトルが一定の硬さを保つのも、薬が体の中できちんと効くのも、強固な骨格がそうした分子の構造をしっかりと支えているからです。多様な機能を生み出す鍵骨格である芳香環は、従来では壊れない・壊してはいけないとされていました。しかし近年、この芳香環を壊して、別の環に作り替える研究が行われています。
芳香環を別の芳香環に
芳香環の作り変えには、まず環を形作る原子の間の結合を切って、1つの原子を取り出し、別の原子を入れ込むという高度な技術が使われます。これによって芳香環が別の芳香環に生まれ変わります。昆虫のサナギが蝶に変態する様になぞらえて「芳香環メタモルフォシス(生物学用語で変態)」と呼ばれています。
芳香環メタモルフォシスは、製薬企業が新たな薬を生み出す技術として注目されているほか、材料科学分野では電気を流す有機半導体の創出研究にも応用されはじめています。芳香環は身の周りのあらゆるものに含まれているため、将来芳香環メタモルフォシスがより簡単にできるようになれば、化学合成の世界を一変させるほど、大きな可能性を秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 理学部 化学専攻 教授 依光 英樹 先生
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