ナマコの毒が未来の薬に? 溶血性レクチンの可能性

ナマコの毒が未来の薬に? 溶血性レクチンの可能性

溶血性レクチン

九州北部の海に生息する「グミ」と呼ばれるナマコの一種は体液の中に毒を持っています。この毒はタンパク質で、赤血球を破壊して溶かすため、「溶血性レクチン」と呼ばれます。またサンゴの一種は、赤血球を網状につないで沈殿させるタンパク質を持っており、このタンパク質の一部を切り取ると溶血性レクチンになることが解明されています。ナマコやサンゴは、捕食者に対する忌避物質として、このようなタンパク質を持っていると考えられます。

毒も使いようによって薬になる

溶血性レクチンは赤血球に孔を開けて壊します。まず一つの溶血性レクチンが赤血球膜の表面にある糖鎖に結合し、構造を変化させながら別の溶血性レクチンと結合していきます。最終的に7個の溶血性レクチンが画びょう状に結合して赤血球に孔を開けることがわかっています。途中段階の構造変化と結合プロセスの詳細は、まだ正確には解明されておらず、現在国際研究が進められています。
この溶血性レクチンが持つ「壊す」という性質を生かして、赤血球以外の特定の細胞を破壊するタンパク質を作ることが考えられます。例えば体内でがん細胞だけを破壊したり、ウイルスの増殖を防いだりするといった医療への応用です。溶血性レクチンは3つの部分から作られています。そのうちの赤血球を認識して結合する機能を担う部分をほかの細胞を認識・結合するように変えられれば、実現の可能性が開けます。これから研究が進められていくところです。

タンパク質の構造変化を調べる

複数のタンパク質が結合することによって、人体に害を及ぼすケースはほかにもあります。例えば、タンパク質が繊維状の塊となったアミロイドが臓器に沈着すると、さまざまな病気を引き起こします。どのようにして結合するのかがわかっていないことが多く、解明が待たれています。
こうしたタンパク質の立体構造を調べるには、主に電子顕微鏡が使われます。近年の電子顕微鏡の技術とコンピュータの発達により、研究が迅速に進むようになっています。

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創価大学 理工学部 共生創造理工学科 教授 郷田 秀一郎 先生

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タンパク質科学、生物物理学、酵素科学

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メッセージ

目先のことだけではなく長いスパンで将来のことを考えてほしいです。未来はわからないとよく言われますが、ある程度は予想できます。多くの高校生は、これから50年程度は現役の社会人として過ごすことでしょう。50年後の世界はどうなっているでしょうか。地球が温暖化したり、少子化が進んでいるでしょうか。そのときに必要とされる研究や仕事はどんなものでしょうか。逆になくなる仕事もあるでしょう。将来を見据えて、どんな勉強をするのか、社会でどんな仕事に就くのかを考えて、自分の道を選んでください。

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