講義No.13639 応用化学

電池内の電極と接する分子の振る舞いを直接観測! ~想定外の事実が

電池内の電極と接する分子の振る舞いを直接観測! ~想定外の事実が

電池の心臓部を詳しく観測できる画期的な手法

電池の基本的な仕組みは、「電解液に差した2本の異なる電極をつなぐと、イオンが反対の電荷を帯びた電極に引き込まれたり、電極から放出されるイオンが電極電荷と反発して離れたりすることを駆動力として、電気が発生する」というものです。細かく見ると、電極からわずか数ナノメートルの範囲に電荷と引き合うイオンの層(電気二重層)ができ、ここが電池の心臓部として働きます。実は、この電気二重層で何が起きているか、まだわかっていないことも多いのです。
特に稼働している最中の電極の観察は非常に難しかったのですが、最近開発された観察手法により、電池が放電・充電しているときの電極表面の状態がわかるようになりました。特別な光を当てる、極小の「力」を測るなどの方法によって、そこでの分子やイオンの振る舞いが観察できたり、得られたデータをコンピュータ・シミュレーションを駆使して理解できるようになったのです。

水分子同士の結びつきは大きく変化する

この手法でわかった想定外の事実の一つは、電極周辺の水溶液の電解液は、その種類によって水分子同士の結びつきが大きく変わることです。
水分子中の酸素はマイナス、水素はプラスに弱く帯電しており、隣合う水分子と引き合って緩くつながったネットワークを作ります。これまで、電解液に溶けている物質の種類に関わらず、水分子は同じように振る舞うと考えられていました。ところが、ある電解液では水分子のネットワークが壊れていく変化に対し、別の電解液ではネットワークが成長していくことが観測できたのです。これは、教科書を書き換えることになるような画期的な発見と言えます。

産業界からも注目を集める観察手法

スマートフォン、電気自動車など、生活に必要なさまざまな機器に使われている電池は、ますます高性能なものが求められています。電池の心臓部である電気二重層を直接観察する手法は、電池開発にも大いに役立つと、産業界からも期待が寄せられています。

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大阪大学 基礎工学部 化学応用科学科 合成化学コース 教授 福井 賢一 先生

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メッセージ

私は子どもの頃から理科の実験が好きでしたが、他にもいろいろなことに興味がありました。高校でも文系か理系か迷いましたし、大学では直接関係ない理系講義も受けていました。結局、触媒への興味から化学に進みましたが、複雑な分子の挙動を調べるという共通点から、電気化学の研究も始めました。目標を決めて一直線に進まずとも、いろいろなことを学んでいくうちに、結果的に世の中の役に立つことに繋がると思います。学んだことは決して無駄にはなりません。今も、年に100冊くらい小説を読むなど、様々なことに興味を持っています。

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