約300の受容体で数百万の化学物質をかぎ分ける嗅覚の仕組み
匂いを言葉で表現するのは難しい
味覚も嗅覚も同じ化学物質に対する感覚ですが、大きな違いは、嗅覚には「原臭」がないことです。原臭とは、味覚で言えば酸味・苦味・甘味・うま味・塩味のように、分類可能な基本的な匂いのことです。嗅覚では、「甘い匂い」や「リンゴのような匂い」という言い方はしますが、これは味覚の分類や匂いを発するものの名前を借りているだけです。匂いそのものを表現する方法はありません。このことが匂いの分析を難しくしています。
嗅覚は味覚に比べてはるかに高感度です。味覚は100万分の1の濃度の溶液の味を感じることが可能ですが、嗅覚はなんと1兆分の1に薄めても感じることができます。鼻孔にある匂い物質に反応する受容体の種類は人間の場合、約300と言われています。ちなみに犬は約1000種類の受容体があります。自然界には数百万の化学物質があるので、約300の受容体でかぎ分けるのは不可能に思われます。しかし、最近の研究で匂い物質と受容体は1対1の関係でないことがわかってきました。匂い物質は複数の部分構造で構成されていて、複数の受容体が同時に1つの匂い物質を受容します。受容された情報は、脳の嗅球という部位で整理、統合されます。部分構造は匂い物質が異なっても共通なので、部分構造の組み合わせによって300程度の受容体の数でも多くの化学物質をかぎ分けることが可能です。
さまざまな分野での応用が期待される匂いセンサー
匂いを感じる仕組みが解明される中で、「匂いセンサー」の開発も行われるようになりました。「一般匂いセンサー」という装置は、上記の匂いを感じるメカニズムを模した構造で、匂い物質の部分構造(匂いの質)と匂いの強さを検出します。人間が感じない匂いを検出する「超高感度匂いセンサー」という装置もあります。これは爆薬や麻薬など1種類の匂い物質を探知します。匂いを分析・検知する装置は、食品、防災、医療などさまざまな分野での応用が期待されています。
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