がん細胞を駆逐! 薬として活躍するウイルス
遺伝子薬を運ぶウイルスベクター
いま、薬となる遺伝子を、ウイルスを使って細胞へ運ぶ遺伝子治療やワクチンの開発が活発に行われています。遺伝子工学の技術でウイルス遺伝子を改変することで、病原性をなくすほか、ウイルスの表面にある細胞を認識するアンテナを修正し、感染する細胞を変えることなどもできます。アデノウイルスは遺伝子を細胞に運ぶ「運び屋」として用いられますが、ヒトに感染するものだけでも約100種類あり、遺伝子改変によるアンテナの修正を組み合わせれば膨大な数の種類のウイルスを作ることができます。遺伝子治療やワクチンに用いた場合に、もっとも効果が高いウイルスの開発研究が進められています。
ウイルスそのものを薬に
さらに、がん細胞の中だけで増殖し、細胞を死滅させるウイルスの研究も行われています。つまり、ウイルスそのものを抗がん剤として利用するのです。ほとんどのがん細胞には、がん細胞だけに共通して発現しているタンパク質があります。そこで、そのタンパク質に反応することで、ウイルス増殖が起こるようにウイルスの遺伝子を設計すると、正常な細胞では増えず、がん細胞の中だけで増殖するようなウイルスを作ることができます。
それに加えて、体の免疫反応をうまく活性化し、ウイルス増殖と免疫反応の両方でがん細胞を叩くようなウイルスの開発研究が行われています。
新薬開発に役立つ技術の研究
薬の開発には、薬の効果や毒性などの試験が欠かせません。特に、薬が代謝され毒性があれば障害が起こる肝臓や、薬を吸収・代謝する小腸の細胞でのチェックが必要です。そこで、新薬開発を効率化するため、ヒトiPS細胞などから作られた肝臓や小腸の細胞を使った試験の実現に向けた研究が行われています。これらの人工的な肝臓や小腸の細胞の機能を、本物の肝臓や小腸に近づけるための研究や、これらの細胞を用いて薬の効果や毒性を評価する研究が取り組まれています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 薬学部 薬学科 教授 水口 裕之 先生
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