舌がん治療の効果と安全性を大きく向上させる歯学の力
舌がんの放射線治療
日本では年間6,000人が舌がんにかかっており、そのうち8~9割では切除手術が行われます。がんは丸ごと除去されますが、うまく話せなくなったり、食べ物の味がわからなくなったりする点がデメリットです。
これに対し、味覚や話す力、見た目を維持するために有効な手段が放射線治療です。放射性物質から放出される電磁波や粒子線をがん細胞に当て治療を行う放射線治療は、2種類に分けられます。体の外からがん細胞に向けて放射線を当てる外部照射と、体の内側に放射線を出す線源を入れてそこからがん細胞に当てる小線源療法です。
ロボットを使った高線量治療
直接的に患部に放射線を当てられる小線源療法ですが、放射線を出す器具を操作する医師の手が被ばくしてしまいます。だからといって放射線の線量率を低く抑えると、効果も下がってしまいます。そこで、2000年になって開発されたのが「高線量率組織内照射法」です。事前に患者のあごからチューブを差し入れ、舌とがんを貫通させます。その後はロボットを使ってチューブの中に線源を差し入れ、がん細胞に向けて照射します。ロボットは被ばくの心配がないため線量率が高められ、慎重かつ正確に患部に照射することも可能になります。
生かされる歯学の知見
ロボットによる0.1mm単位の治療ができるようになった高線量率組織内照射法にも、課題はありました。舌がんは舌の側面にできることが多いため、放射線が歯や歯茎にも当たってしまうのです。そこで2016年、新しいスペーサーを用いた療法が開発されました。手術前にあらかじめ溝をつけたマウスピースのようなスペーサーを装着し、CTスキャンでがん細胞のある場所を特定した後、溝に鉛を流し込んで治療を行うものです。鉛が放射線をブロックし、周囲の被ばくを防ぐことができます。
このスペーサーの開発には、義歯づくりの発想とノウハウが生かされています。つまり歯学には、歯や歯周病だけでなく、舌がんを含む口腔(こうくう)内の治療への大きな貢献が期待されているのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 歯学部 歯科放射線学講座 教授 村上 秀明 先生
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放射線生物学、放射線腫瘍学先生が目指すSDGs
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