ものづくりに潜む「職人のワザ」を科学する
切る、削る
ものづくりの現場で行われている作業の中でも、「切る」「削る」といった切削加工は重要なプロセスです。しかし一口に切る、削ると言っても、世の中にはそれが大変困難な材料が山のようにあります。例えばニッケルとクロムの合金は、熱にも力にも強いので、航空機やロケット、人工衛星など、極限環境にさらされる製品の材料に使われますが、同時に、「硬くて強い」がゆえに最も切削加工が困難な合金として知られています。こういった材料を「上手に」削るための技術が、「ものづくり」を支えているのです。
その瞬間に、何が起こっているか
切削加工は、昔からものづくりの現場で盛んに行われてきたものの、詳しいメカニズムがあまり知られていない現象も多々あります。これは、物を削る瞬間、工具と材料との接点では、千数百度という温度が発生していたり、数ギガパスカルといった圧力が加えられていたりと、極めて過酷な環境が発生していることが原因です。クーロンの摩擦法則といった、あなたが高校の物理で習った数々の物理法則が通用しないほど過酷な環境です。「上手に」削るための技術を生み出すためには、こういった未知の現象の解明が不可欠なのです。
経験を科学で解明、未来へつなげる
「上手に」削るための技術を生み出すためのヒントとなるのが、職人さんの経験やコツです。この、職人が「なんとなく」やってきたプロセスの中に、実は興味深い現象が隠れているのです。例えば、切削前に職人がおまじないのように材料に触れたり、撫でたりすることがありますが、この一撫でで実際に加工後の仕上がりに違いが現れることがあるのです。それは表面に付着した脂分や手垢といった高分子が、切削機構に作用するためです。
こういった現象の原因を科学的に明らかにすることで、より環境にやさしい潤滑油の作成や、これまでと異なる潤滑プロセスの提案が可能になるでしょう。科学で解明することで、さらに高精度で高能率、しかも低コストな未来の「ものづくり」を、加工という技術からバックアップするのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 工学部 応用理工学科 機械工学科目 准教授 杉原 達哉 先生
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