環境に良い製品が売れるとは限らない
モラルは価値の前で兜(かぶと)を脱ぐ
スーパーに洗剤を買いに行きましょう。同じ値段で、片や汚れはよく落ちるけれども、とても環境負荷の高い洗剤、もう一方は、環境への配慮は十分だけれど、汚れはほとんど落ちない洗剤。その二つが並んでいたとして、どちらを買いますか。おそらく、大多数の人は前者を選択するでしょう。それは人々が洗剤を購入する最大の理由が、「汚れを落とす」という要求を満たすためであるはずだからです。
そこで問題となるのは、環境負荷低減のための手段を、実際の製品開発に応用しようとすると、多くの場合、本来製品に求められる性能が低下してしまったり、性能は維持できてもコストが跳ね上がってしまうことです。つまり、環境にやさしいモノを作ることはできても、それを市場に定着させることはそう簡単ではないのです。
未来の製品は「モノ」×「コト」で勝負
今やかつてのような「大量生産・大量消費」を基本とする社会のかたちを続けることは困難となりました。これからの社会では、「適量生産・適量消費」を基本とし、リサイクル、リユースなどの再生手段を生かしながら、資源・エネルギー消費量削減と、環境汚染の抑止を実行する必要があるのです。
現代では、大量生産により非常に多くのモノが社会に行き渡った結果、人々の要求はさらに高度化し、モノにより実現される価値よりも、コト(つまりサービス)により実現される価値を一層重視する傾向にあります。つまり今後の「モノづくり」においては、モノとコトの統合的な設計によって得られる高い価値をもつ製品を、必要とされる最低限の量だけ生産し、モノの販売とコトの販売の双方で利益を確保すればよいのです。
そしてそのような新しいモノづくり・コトづくりを実現するためには、これまでの工学やマーケティングなどの個別の分野で培われてきた知識や技能を横断的に駆使し、安全、安心などを含むさまざまな価値を満たすための多様な方法・手段を生み出すことが必要です。それが環境に対する負荷を低減しつつ、豊かで便利で、そして持続可能な社会を築くことへと結実していくからです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 システムデザイン学部 機械システム工学科 教授 下村 芳樹 先生
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