デジタルが引き起こした音楽ビジネスの「原点回帰」
メディアから見た音楽の変遷
「コンテンツビジネスの歴史に技術進歩がどう影響を与えるか?」を、音楽を例に見ていきましょう。最初の転機は1500年代初めの活版印刷による楽譜の普及でしょう。それまで音楽は宮廷音楽家とパトロンだけのものでしたが、楽譜の量産によって、ほかの人も演奏できるようになったのです。これが「音楽出版=音楽ビジネス」の始まりでした。
次の転機は1877年のエジソンによるアナログレコードの発明です。レコードが広く販売されるようになって著作権の概念が音楽にも拡大、ラジオやテレビの発達とともに、音楽ビジネスで巨万の富を得る者も出現します。
3つめの転機はアナログからデジタルへの移行、CDの発明でした。1982年、世界で初めてCDを生産したのは日本のソニーでした。
技術の進歩は音楽メディアの「形」も変えた
昔のLPレコード(アルバム)は1枚に約10曲を収録、それを通してじっくり聴くものでした。ところがCDは「頭出し」ができるため、とばし聴きされるようになり、サビで始まる曲の増加や、ヒット曲だけの「ベスト盤」が流行します。やがて音楽は1曲ごとにデータをダウンロードする「単品買い」が中心になり、今ではネットで無料で聴けるような状況です。小型化していった音楽メディアは、とうとう形がなくなり、聴くための対価も「ゼロ」になってしまったのです。
ゼロから原点へ
しかし「ゼロ」にならない音楽メディアがあります。それはライブ演奏です。究極のアナログメディアともいえるライブは、アルバム文化が消滅した今、再び音楽ビジネスの主流になっています。それは、生演奏だった宮廷音楽の時代に原点回帰したとも言えるでしょう。
また特筆すべきはパフォーマーのアイコン化です。例えば「Perfume」の3人はライブで実際には歌っていないし、「初音ミク」に至っては人間ですらありません。西洋音楽の始まりは聖歌でしたが、1つのアイコンに人々がライブで熱狂する姿は宗教に近く、ここでも音楽の原点回帰を見ることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
阪南大学 国際学部 国際コミュニケーション学科 教授 大野 茂 先生
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