光に反応する高分子が細胞培養技術を支える

光に反応する高分子が細胞培養技術を支える

細胞が成長しやすい環境は?

医療や生物学の研究で細胞培養は欠かせません。細胞を培養する装置を細胞培養デバイスと言いますが、多くの細胞を培養するために、どのようなものが最適なのか、長い間研究されてきました。
細胞は、外部環境の化学的組成、そして硬さと形状を認識します。今まで注目されていたのは化学的組成でしたが、硬さと形状も化学的組成以上に重要であることがわかってきました。軟らかいものの上で培養すると、細胞は死んでしまいます。しっかりとした足場があると、細胞は自分自身を支える細胞骨格というものを傘の骨のように張り出させ、成長していきます。

極小の剣山の上で成長する細胞

臓器を囲む組織はガラスのようにツルツルした表面は有していません。そこで、実際の身体のように3 次元的で、デコボコした足場の方が細胞培養に適しているのではないかとの仮説から、新しい細胞培養デバイスが考えられました。
その形は、花を生ける剣山を1/600にしたようなもので、素材は高分子です。針の直径は1~2ミクロン、高さは7ミクロンです。これを5ミクロン間隔で2500本並べます。剣山の上と周辺の平らな部分に細胞を置くと、剣山上の細胞は活発に動きますが、平らな部分ではほとんど動きを見せません。
また、針の硬さや間隔を変えると一定方向にしか細胞が伸びていかないこともわかっています。

細胞培養デバイスに利用される最新技術

この細胞培養デバイスに使われている高分子は、光を当てることで弾性が変化する性質をもっています。青い光を当てると分子が縮んで絡まりあうことで硬くなります。そこへ緑の光を当てると元に戻るのです。光の当て方によって分子レベルで硬さを調節できるので、細胞に最適な環境を作りだすことが期待されています。
現状では、すい臓や肝臓の細胞を培養できるデバイスは存在しませんが、この細胞培養デバイスが実用化されれば、将来そのような細胞も継代(けいだい)培養できるようになるかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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東京農工大学 工学部 応用化学科 教授 渡辺 敏行 先生

東京農工大学 工学部 応用化学科 教授 渡辺 敏行 先生

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応用化学 有機材料化学

メッセージ

受験のための科目はいろいろな分野に分かれていますが、世の中で実際に研究の対象となる現象や開発すべき商品は、それらが融合したものです。バイオテクノロジーを研究したい場合でも、生物だけでなく物理と化学をもっと勉強する必要があります。物理と化学がわかっていると、自分で作りたいものを考え、設計し、作ることができます。あなたが興味を持った有機材料化学は、「まだ世の中になく、必要とされているもの」とは何かを考えて、それを実際につくる学問です。そのためにも、物理や化学の原理原則を理解することは大前提なのです。

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