海水を冷やしてできる結晶は? 結晶化工学の不思議と可能性
流氷から知る結晶の不思議
3%の食塩水溶液を冷やすと、何の結晶ができるでしょうか。食塩でしょうか。ここで冬のオホーツク海をイメージしてください。海水は食塩(塩化ナトリウム)を主とした水溶液ですが、海に浮かんでいるのは流氷です。よって質問の答えは食塩ではなく、水の結晶です。
こうした不思議な性質をもつ結晶の特性を調べ、制御する学問を結晶化工学といいます。物質を結晶にすると非常に高純度になるという特性があるので、結晶化工学はさまざまなものづくりに応用されています。代表的な例は製薬で、全体の約7~8割もの薬が結晶化工学を使ってつくられています。ほかにも、リチウムイオン電池の製造や、廃水から特定の物質を回収する際にも応用されています。
タラコの10億倍!
たとえ同じ分子でも結晶になるとき、さまざまな形態にわかれます。例えば解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン結晶をつくる際も、わずかな形態の違いが効き目の差になって表れます。結晶化のはじめの段階では、1秒間に約10の14乗個もの分子が集まります。1腹のタラコが約10万粒ですから、その10億倍にもなる分子がぎゅっと集まるのです。さらに、分子が前後・左右・上下にきれいにそろわなければ結晶になりません。こうした複雑な特性を踏まえて、狙い通りの構造をもった結晶をつくることが結晶化工学の難しいところであり、それを制御するのが大切な命題といえます。
注射の恐怖から解放される?
結晶化工学の研究が、今後さらに進むことで、より純度が高く高性能な医薬品をつくることが可能になります。高性能になれば、例えば錠剤の形で服用した薬が腸から吸収され、血液に溶け出すまでのスピードや効率も良くなります。そうなると、現在は注射で投与されている薬が、錠剤でも同じ効果を得られるようになり、患者の負担を減らすことにもつながります。人体に投与された薬物のうち、全身に循環する量を示す指標をバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)といいますが、これを高める上でも結晶化工学の発展が欠かせません。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
東京農工大学 工学部 化学物理工学科 教授 滝山 博志 先生
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