筋肉をまもるしくみ:健康長寿の実現に向けて
筋肉の再生は筋幹細胞が関与する
スポーツをしたあとの筋肉痛は、骨格筋(筋肉)の細胞がダメージを受けることで起きます。身体を動かすとき、骨格筋の「筋線維」が縮む・伸びる(収縮・弛緩)を繰り返しますが、過剰な負荷が掛かると筋細胞は損傷を受けます。しかし、筋細胞は再生能力が高く、筋線維はすぐに回復します。
筋線維が再生するときは、まず筋肉に存在する大元の細胞「筋幹細胞(筋衛星細胞)」から「筋芽細胞」という細胞がたくさん生まれます。それらが融合し、一本の管のような細胞の中にたくさんの細胞核を持つ「筋管細胞」になり、それが成熟して「筋線維」ができます。
イオンチャネルタンパク質が物理的な力を感知
どのように筋幹細胞がダメージを感知し、筋芽細胞を作り出すのかというと、研究によって、そのカギがカルシウムイオンにあることがわかりました。
細胞の内と外は細胞膜によって区切られていますが、細胞膜には「イオンチャネル」と呼ばれる各種のタンパク質があり、ゲートのような役割をしています。一定の条件で閉じているイオンチャネルが開き、細胞外にある各種のイオンを細胞内に流入させ、細胞のいろいろな機能を起動させます。
研究の結果、カルシウムイオンのイオンチャネルのタンパク質が力を感知することがわかりました。収縮・弛緩など、細胞にかかる力をイオンチャネルが感知し、カルシウムイオンを細胞内に流入させることで、筋幹細胞が運動による細胞のダメージから筋線維を再生させるスイッチになっているのです。
筋疾患の治療や高齢者の健康維持へ
この研究成果の先に期待されているのが、現段階では完治の難しい、筋ジストロフィーなど筋疾患の治療法開発です。また、高齢者介護の負担が増えている日本では、高齢者の筋力維持に関する研究も待ち望まれています。
研究を通じて、筋肉の再生に関わるタンパク質(イオンチャネル)に働きかける物質が見つかれば、薬によって病気や加齢で衰えた筋肉を再生させる可能性が期待できるのです。
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先生情報 / 大学情報
静岡県立大学 薬学部 薬科学科 教授 原 雄二 先生
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