音声の研究がめざすもの~個性あるコンピュータと対話する日~

音声の研究がめざすもの~個性あるコンピュータと対話する日~

音声研究の変遷をたどる

映画やアニメに描かれるように、人間と対話する機械をつくることは人類の長年の夢です。音声研究の変遷をたどって現在までの過程を見てみましょう。
人間の声は、肺から出た空気が声帯を震わせ、口の中で響いて発せられます。1700年代にハンガリーの発明家、ケンペレンがその仕組みを模して機械仕掛けの音声合成装置をつくりました。肺に相当する送風装置「ふいご」から空気を送り、皮で出来た管に通します。管の握り方を変えると、異なる音色を出すことができました。

機械から電気、そしてデジタルへ

1939年のニューヨーク万国博覧会では、電話の発明者であるベルの研究所が、シンセサイザーの先駆けとなる「Voder」を発表しました。パイプオルガンのような大きな装置を使い、電気回路で声の振動を制御する機器です。オペレーターが鍵盤を操作し、言葉をまるで演奏のように響かせました。
1970年代に入ると、計算機の発達によりデジタル処理が可能になります。音声を1と0を使った信号に置き換え、記録・編集・合成・再生が容易に行えるようになりました。この技術を用いて、1978年にアメリカで「SPEAK&SPELL」という単語の綴りを教えるオモチャが発売されます。このオモチャは人々に驚きをもって迎えられ、音声合成は身近なものになりました。

技術からコンテンツをつくる時代へ

現代ではメロディーと歌詞を入力し、合成した音声の高さや大きさを自在に変えることで、コンピュータに歌を歌わせることもできます。ヤマハが2003年に開発した音声合成技術「VOCALOID:ボーカロイド」を使った、「初音ミク」というキャラクターが登場し、その曲がヒットチャートの1位になるなど注目を集めました。音声合成は技術からコンテンツをつくる時代へ突入し、文化として発展をし始めているのです。
音声でのコミュニケーションは、感情をともなった個性を持つ存在との触れ合いです。遠くない未来に、このような個性を備えた三次元キャラクターが現れることでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

名古屋大学 工学部 電気電子情報工学科 電気電子工学コース 教授 武田 一哉 先生

名古屋大学 工学部 電気電子情報工学科 電気電子工学コース 教授 武田 一哉 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

情報科学、音声信号処理 

メッセージ

音の研究の歴史は物理学から始まりました。2つの音が響き合う条件や音の大きさを計測することは、ギリシャ時代には大きな問題でした。近代に入り、電話が発明され、音や声が通信の手段になって以降、音は電気や電子回路などと関連づけて研究されてきました。そして今ではコンピュータなしに音を語ることはできません。音の研究は情報科学の研究でもあります。学際的なこの分野に興味を持ったら、幅広い科目の勉強を続けてください。

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。