より快適な「聴こえ」を実現する音の情報処理技術
ヒトによる音の情報処理には未解明の部分が多い
私たちは、常に音に包まれて生活しています。音は空気の振動です。我々は、このわずかな振動からさまざまな情報を聴き取り、音によるコミュニケーションを行っています。次々に届いては消える空気の振動から、遅れることなく、休むことなく、必要な信号を取り出しているのです。しかし、鼓膜に伝わった空気の振動から、聴覚と脳を使って、いかにして必要な情報を取り出しているかについては、まだ解明されていません。例えば、多くの人の話し声でざわざわした環境の中でも会話ができるのはどうしてなのか、左右の耳に音が届くごくわずかな時間差や音圧差から音の方向を知覚する仕組みなど、ヒトによる音の情報処理には未解明の部分が多いのです。
混ざり合った音から必要な音だけを分離する技術
ヒトによる音の情報処理に関する研究は、情報科学に加えて、心理学や生理学、脳科学の広い分野にわたって研究が行われています。その応用として、1990年代からはコンピュータを用いて、さまざまな音が混じり合った音から必要な音だけを分離する「聴覚による情景解析」と呼ばれる研究が行われています。この研究の成果として、我々の賢い聴覚機能にならって、必要な音だけを取り出す「音の分離」が可能になったのです。
スマートフォンや携帯電話の高音質化にも貢献
こうした音の分離技術は、工学的な分野でも活用され、私たちの音をめぐる生活に役立っています。例えば、スマートフォンや携帯電話の通話音声から雑音を除去して聞き取りやすくする機能、電波状態が悪い繁華街などで通話中に途切れた音声を自動的に修復する技術などです。さらには、耳の不自由な人を助けるデジタル補聴器でも、不快な雑音を除去して必要な音だけを大きくすることで、快適な聴こえを実現しています。
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九州工業大学 工学部 電気電子工学科 教授 水町 光徳 先生
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